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脂質異常を放置しないで!ApoE4遺伝子と認知症リスクにスタチンが効果的?

認知症と脂質異常の意外な関係

〜ApoE4遺伝子とスタチン治療の新たな知見〜

認知症といえば「物忘れ」が進行する病気という印象が強いですが、
その背景には「脂質の異常な代謝」が関係していることをご存知でしょうか?

今回は、2024年に発表された2つの注目研究をもとに、
ApoE4遺伝子脂質代謝の異常スタチン治療の関係について、わかりやすく解説します。

ApoE4遺伝子が脳内で脂肪をためこみ神経にダメージ?

2024年3月、英国の科学誌『Nature』に掲載された研究では、
アルツハイマー病の発症に関わる「ApoE4遺伝子」のメカニズムが新たに明らかになりました(Haney et al. 2024)。

この研究では、**ApoE4を持つマイクログリア(脳内の免疫細胞)**が、
脂肪滴(lipid droplets)」という脂肪のかたまりを異常に蓄積することが示されました。

さらにこの脂肪滴は、

  • 神経細胞に悪影響を及ぼす物質を分泌し、
  • 神経細胞に**タウタンパク質の異常な蓄積(タウ病理)**を引き起こす、
  • 結果として**神経毒性(神経細胞のダメージ)**を高める、

という悪循環が確認されたのです。

特に注目なのが、「ACSL1」という脂質を作る酵素の働きが関係しており、
ApoE4があるとこの酵素が過剰に働き、脂質代謝が破綻しやすくなることです。

スタチンでリスク低下?ApoE4保有者に朗報

次にご紹介するのは、2024年4月に『Neurology』誌に掲載されたアメリカの研究です(Rajan et al. 2024)。

この研究では、ApoE4遺伝子を持つ高齢者約4800人を対象に、
**スタチン(コレステロールを下げる薬)**の効果を調べました。

その結果、スタチンを服用していた人はしていない人に比べて、
アルツハイマー型認知症の発症リスクが有意に低下していました。

特にApoE4を持つ人では、スタチンを使用することで

  • 認知症の発症リスクが40%も低下(HR 0.60)、
  • 記憶の低下も緩やかに、
  • エピソード記憶(出来事の記憶)の保持にも効果的、

とされ、予防的な意義が非常に高いことが明らかになりました。

一方で、ApoE4を持たない人では、スタチンによる有意な効果は見られませんでした。
つまり「ApoE4を持つ人にとってスタチンがより重要」であるといえます。

脂質異常症の治療は認知症予防にもつながる

これらの研究から、以下の3点が読み取れます:

  1. ApoE4遺伝子を持つ人は脂質代謝異常により脳が傷つきやすい
  2. 脂質異常を放置すると、神経細胞が損傷し、認知症リスクが高まる可能性
  3. スタチン治療により、ApoE4保有者の認知症リスクを大きく下げられる可能性

脂質異常症は放っておくと動脈硬化や心筋梗塞のリスクになるだけでなく、
脳の健康にも深く関わっているのです。

当院では、脂質異常と認知症リスクの管理を専門医が行います

当院「シーサー通り内科リハビリクリニック」では、認知症専門医・予防専門医・動脈硬化専門医(が在籍しており、認知症予防や脂質異常に対する適切な診断・治療を行っています。

  • 家族に認知症の方がいる
  • コレステロール値が高いといわれた
  • スタチンを始めるかどうか悩んでいる

こういった方は、ぜひお気軽にご相談ください。
脂質のコントロールは、将来の脳を守る第一歩です。

【参考文献】

  1. Haney MS, et al. APOE4/4 is linked to damaging lipid droplets in Alzheimer’s disease microglia. Nature. 2024 Mar 13. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07185-7
  2. Rajan KB, et al. Statin Initiation and Risk of Incident Alzheimer Disease and Cognitive Decline in Genetically Susceptible Older Adults. Neurology. 2024 Apr 9;102(7):e209168.