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糖尿病治療薬が認知症を防ぐ?最新研究が示す意外な結果

SGLT2阻害薬 vs メトホルミン:認知症予防に最適な薬はどっち?

2型糖尿病は、脳の健康にも大きく関係しています。実は、糖尿病を持つ人は、そうでない人に比べて1.5〜2.5倍も認知症になりやすいことが知られています。

では、糖尿病の治療薬の中で、どの薬がより「脳を守る」のに役立つのでしょうか?最新の研究が、よく使われる2つの薬「メトホルミン」と「SGLT2阻害薬(エスジーエルティーツーそがいやく)」を比較し、その答えに迫りました。

SGLT2阻害薬の方が認知症を減らす可能性

研究では、SGLT2阻害薬またはメトホルミンを初めて使った糖尿病患者を対象に、約7万5千人ずつを比較しました。

その結果、SGLT2阻害薬を使った人では、認知症の発症率が2.7%だったのに対し、メトホルミンを使った人は6.9%でした。これは約20%のリスク減少を意味します。

さらに詳しくみると、

  • アルツハイマー型認知症:1.1%(SGLT2) vs. 3.2%(メトホルミン)
  • 血管性認知症:0.8% vs. 2.0%

というように、すべてのタイプの認知症でSGLT2阻害薬のほうがリスクが低かったのです。

なぜSGLT2阻害薬が効くのか?脳への効果が注目

SGLT2阻害薬は、糖を尿と一緒に出すことで血糖を下げる薬です。実はこの薬には、脳にも良い影響を与える仕組みがあります。

たとえば、

  • 「ケトン体」と呼ばれる脳の代替エネルギー源を増やす
  • 脳の炎症を抑える
  • 血管の健康を保つ
  • 認知症の原因となる「アミロイドβ」たんぱくの蓄積を減らす

といった働きが報告されています。

一方、メトホルミンも優れた薬で、インスリンの効きを良くし、神経細胞を守る作用があります。ただし今回の研究では、SGLT2阻害薬のほうが認知症リスクをより大きく下げる結果となりました。

80歳以上でさらに効果大!命も守るSGLT2阻害薬

興味深いことに、80歳以上の高齢者では、SGLT2阻害薬の効果がさらに顕著でした。高齢になればなるほど、脳のエネルギー不足や血流の悪化が進むため、この薬の持つ「代謝改善」「血管保護」の効果がより発揮されるのかもしれません。

さらに、認知症だけでなく死亡率にも差がありました。

  • SGLT2群:死亡率6.8%
  • メトホルミン群:15.4%

つまり、SGLT2阻害薬は「脳を守る」だけでなく、「命を守る」薬としての可能性も示しています。

まとめ:脳を守る治療薬の選択を

この研究結果は、SGLT2阻害薬が2型糖尿病患者の「認知症予防」と「生存率改善」に貢献する可能性を示した、非常に大きな発見といえます。

もちろん、薬の選択は個人の体質や他の病気との兼ね合いもあり、一概にどちらが「正解」とは言えません。しかし、認知症リスクを気にする方や、高齢の糖尿病患者さんにとって、SGLT2阻害薬は有力な選択肢となり得るでしょう。

今後、より確かな結論を得るにはランダム化比較試験(RCT)による確認が必要ですが、日々の診療において「脳を守る視点」で薬を選ぶことは、これからの糖尿病治療の新たな常識になるかもしれません。

【出典・参考文献】

Sun M, Wang X, Lu Z, et al. Comparative study of SGLT2 inhibitors and metformin: Evaluating first-line therapies for dementia prevention in type 2 diabetes. Diabetes Res Clin Pract. 2025. https://doi.org/10.1016/j.diabet.2025.101655

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