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てんかん脳神経内科

「失神か?けいれんか?緊急時に迷わないための鑑別ポイントを解説」

【失神とけいれんの違いとは?】

急な意識消失に遭遇したとき、「失神」なのか「けいれん」なのか、判断に迷うことは少なくありません。
救急外来を受診する患者の1〜5%が失神によるものであり、特に高齢者ではその頻度が高まります。

失神とは、脳への血流が一時的に途絶えた結果起こる、短時間の意識消失です。
通常は数分以内に意識が回復し、姿勢保持筋の緊張も一時的に失われ、倒れ込むのが特徴です。

一方、けいれんは、脳の電気的な異常興奮により筋肉が不随意に動く発作です。
けいれんは持続時間が長く、発作後もしばらく意識が戻らないことが多い点で、失神と区別できます。

【PELTで見極める!失神とけいれんの鑑別法】

失神とけいれんを正しく見極めるには、現場で使える「PELT」という4つの観点が役立ちます。

  • P(Physical examination:身体診察)
    失神による外傷や、失神の原因となる基礎疾患の徴候を確認します。
    急性大動脈解離や肺血栓塞栓症など、重篤な疾患を見逃さないことが大切です。
  • E(Episode count:回数)
    失神に伴うけいれん様運動は、10回以内で短時間です。
    一方、てんかんによるけいれんでは20回以上、持続時間も数十秒から数分に及ぶことが多いです。
  • L(Laterality:左右差)
    失神に伴うけいれん様運動は左右対称であることが多いですが、
    てんかんでは眼球偏位や片側の筋肉の引きつれなど、左右差が見られることが特徴です。
  • T(Time course:経過時間)
    失神は数分以内に完全に意識が戻ります。
    けいれんでは意識回復に時間がかかり、発作後状態(ぼーっとしたり混乱したりする状態)を経て徐々に改善します。

これらの視点を持つことで、現場での迅速な判断が可能になります。

【家族からの情報は鵜呑みにしない!失神とけいれんの正確な聞き取り方】

失神とけいれんを区別するためには、患者本人だけでなく、目撃者(家族など)からの情報が重要です。
しかし、目撃証言は主観的になりやすいため、具体的なポイントを押さえて聞く必要があります。

例えば、

  • 倒れる前に前兆はあったか
  • 意識が戻るまでどのくらいかかったか
  • 手足の動きに左右差があったか
  • けいれんの動きはどのくらい続いたか

などを丁寧に聞き取り、再現ドラマを作るように状況をイメージすることが大切です。

また、けいれん性失神という病態にも注意が必要です。
これは失神に伴い一時的にけいれん様の動きを呈する状態で、てんかんと間違われることがあります。
けいれん性失神では、けいれんの持続時間は短く、左右差もないのが一般的です。

【まとめ】

失神とけいれんは、見た目が似ていることもあり、現場では判断が難しいことが少なくありません。
しかし、

  • 症状の持続時間
  • けいれんの左右差の有無
  • 意識回復までの経過
  • 目撃情報の具体性

などを冷静に評価することで、正しい鑑別が可能になります。

また、失神は「ただ倒れただけ」と軽視されがちですが、
その背景に重篤な疾患が隠れている場合もあります。
必ず原因を探り、必要に応じて精密検査や専門科への紹介を行うことが大切です。

急な意識消失に遭遇したときは、ぜひこの記事で紹介した「PELT」の考え方を思い出してください。
そして、慌てず、冷静に、確実な対応を心がけましょう。

【引用文献】

  • 坂本壮.失神かけいれんか、それが問題だ.日経メディカル Online.2025年4月28日掲載
  • Möckel M, et al. Eur J Emerg Med. 2024;31:250-9.
  • Sheldon R, et al. J Am Coll Cardiol. 2002;40:142-8.
  • 坂本壮『救急外来 ただいま診断中! 第2版』(中外医学社、2024)
  • Shmuely S, et al. Neurology. 2018;90:e1339-46.
  • Kotagal P, et al. Epilepsia. 2000;41:457-62.

【当院のご案内】

シーサー通り内科リハビリクリニックでは、

  • 意識消失の精査(心電図、超音波検査など)
  • てんかん・失神の専門的診断と治療
  • 脳心血管リスク管理

を行っています。
「突然倒れた」「けいれんがあった」といった症状でお困りの方は、まず怖い救急の御病気がないか?総合病院にご相談をし、それらがなければ、当院までご相談ください。