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てんかんと認知症の意外な関係|前頭側頭型認知症でリスクが高まる理由
前頭側頭型認知症でてんかんリスクが上昇?見逃されやすい症状と最新知見
前頭側頭型認知症(FTD)は、比較的若年で発症する認知症として知られていますが、近年「てんかん」の合併が注目されています。最新のフィンランド大規模研究では、FTD患者においててんかんの有病率が健常者やアルツハイマー病(AD)患者に比べて高いことが明らかになりました。
本記事では、【てんかんの発症タイミング】【診断と治療への影響】【共通する脳の変化】の3つの視点から、専門医として解説します。
【てんかんの発症はFTD診断の何年も前から始まる】
この研究では、FTDの診断時期の前後15年間にわたっててんかんの発症状況を追跡しました。すると、FTDの発症10年前からすでに有意に高い割合でてんかんが見られることが判明しました。
- 診断10年前:FTDでのてんかん有病率は3.3%、健常者は0.8%、ADは1.4%
- 診断5年後:FTDでは11.2%がてんかんを合併
つまり、てんかんはFTDの“前兆”である可能性があります。なかには、最初の症状がてんかん発作であったケースもあり、特に焦点発作(部分的なてんかん)が多く見られました。
【見過ごされやすい発作症状と診断への課題】
FTDにおけるてんかんは、典型的なけいれん発作ではなく、注意障害や反応の低下、奇妙な行動など「認知症の症状」と見分けがつきにくい形で現れることがあります。
また、診断前から「精神的な問題」と誤認され、抗精神病薬や気分安定薬(バルプロ酸やラモトリギンなど)が処方されているケースも多くあります。これらの薬剤の一部はてんかんにも用いられるため、診断時にはすでに「抗てんかん薬を使用していた」という背景があり、診断をさらに複雑にしています。
【共通する脳の変化がFTDとてんかんをつなぐ】
なぜFTDでてんかんの頻度が高いのでしょうか?
研究では、以下のような共通の脳の変化が、両疾患の発症に関与している可能性が指摘されています。
- 神経伝達物質の異常(グルタミン酸、GABAなどのバランス異常)
- 前頭葉・側頭葉・海馬の神経細胞の喪失
- 脳の「ネットワーク」の異常(構造的・機能的なつながりの乱れ)
つまり、FTDの進行に伴う脳の変性が、てんかんの「発火しやすさ」=発作の引き金になるのです。
【まとめ:FTDとてんかんの関係を知ることは早期発見への鍵】
この研究からわかる重要なポイントは以下の通りです。
- てんかんは、FTDの診断よりも前に現れる可能性がある
- 症状が認知症と似ているため、見逃されやすい
認知症の早期発見・早期対応のためには、精神症状だけでなく「てんかんの可能性」にも目を向けることが重要です。
【引用文献】 Kilpeläinen A, et al. Prevalence of Epilepsy in Frontotemporal Dementia and Timing of Dementia Diagnosis. JAMA Neurol. 2025;82(7):715-721. doi:10.1001/jamaneurol.2025.1358
