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認知症の進行度は「脳の状態」と一致しない?最新研究で見えたアルツハイマー病の新常識
アルツハイマー病の進行と脳の変化が一致しない?最新研究から見えた新たな課題
2025年に発表された国際共同研究により、アルツハイマー病の診断や進行度の考え方に変化が求められる可能性が示されました。
この記事では、この研究の概要、方法、結果を3つの観点からわかりやすくご紹介します。
【概要】
最新の診断基準では、アルツハイマー病の進行を「臨床ステージ(症状の重さ)」と「生物学的ステージ(脳内の異常の程度)」の2つに分けて評価します。
本研究では、両者が一致しないケースが意外に多く、特に「症状は重いのに脳の変化は軽度」といったズレが多数見つかりました。
こうした患者では、アルツハイマー病以外の脳の異常(例:レビー小体、TDP-43、脳血管障害など)が関与している可能性が示されました。
【研究方法と参加者の特徴】
この研究は、スウェーデンのBioFINDER-2研究とアメリカのADNI研究という2つの大規模コホートを用いて行われました。
- 対象は、アミロイドβ陽性で、タウPETを受けた計1218人(BioFINDER-2: 838人、ADNI: 380人)
- 年齢は平均73歳、男女比はほぼ同じ
- 認知症だけでなく、軽度認知障害(MCI)や主観的記憶障害の段階も含む
臨床ステージは認知機能の低下度により1~6段階、生物学的ステージはタウPETによる脳内異常の広がりに応じてA~Dの4段階に分類されました。
【主な結果と臨床への示唆】
研究の主な発見は次の3点です。
- ステージの不一致が過半数を占めた
BioFINDER-2では、51.3%が「臨床>生物学的」つまり「症状は重いのに脳の変化は軽い」状態でした。
これは、レビー小体型認知症や脳血管障害など、他の要因が関与している可能性を示します。 - 「症状が進んでいるのに脳の異常が軽い」人は脳に別の異常が多かった
このグループは、次のような特徴を持っていました。
- 脳の変性(神経細胞のダメージ)を示すNfLが高値(p=0.002)
- 小血管病変(白質病変や微小梗塞)の量が多い(p<0.001)
- αシヌクレイン陽性(レビー小体病のマーカー)(p=0.02) - 逆に「脳の異常は進んでいるのに症状が軽い」人は神経変性が少なかった
このグループでは、側頭葉の皮質が厚く(神経細胞が保たれている)、比較的若年で女性が多い傾向がありました(p<0.001)。
これは、アルツハイマー病に対する「脳の予備力(resilience)」が影響していると考えられます。
【まとめと今後の展望】
この研究は、「認知症の症状=アルツハイマー病の進行」とは限らないという重要な事実を示しました。
特に、症状の割にバイオマーカーでの異常が軽度な場合、レビー小体病やTDP-43、脳血管病変などの「非アルツハイマー型病理」の可能性を念頭に置く必要があります。
今後、診断や治療を行う際には、こうした「症状と病理のギャップ」を踏まえ、より個別化されたアプローチが求められるでしょう。
本記事のポイントまとめ
- 臨床症状と脳の病理は一致しないことが多い
- 他の神経病理の関与により症状が悪化する可能性あり
- タウPETや非アルツハイマー型バイオマーカーの重要性が再認識された
出典
Pichet Binette A, Smith R, Salvadó G, et al.
Evaluation of the Revised Criteria for Biological and Clinical Staging of Alzheimer Disease.
JAMA Neurol. 2025;82(7):666-675.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/10.1001/jamaneurol.2025.1100
