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一般内科骨粗鬆症

骨粗しょう症治療の空白期間が再骨折を招く?最新研究が示す課題

高齢者の大腿骨骨折後、何が起きる?全国調査が明かす医療と介護の課題

日本では、世界に類を見ない高齢化が進む中、大腿骨骨折(だいたいこつこっせつ)の患者数が増加しています。これは寝たきりや介護が必要になる大きな原因のひとつであり、医療だけでなく家族や社会全体にも大きな影響を及ぼします。

本記事では、2025年に発表された全国調査の結果をもとに、以下の3つの視点からこの問題に迫ります。

【骨折後の治療状況と再骨折リスク】

大腿骨骨折の治療は多くが手術で行われますが、その後の「骨粗しょう症治療」が不十分であることが明らかになりました。

実際、全国約1300の整形外科施設から集められた6705人のデータによると、骨折時に骨粗しょう症治療を受けていたのはわずか23%。6か月後には44.8%、1年後でも47.3%と半数に満たない水準です。

この治療不足が再骨折を招いていると考えられます。調査では、1年以内に11%の患者が新たに骨折を起こしており、その部位は反対側の大腿骨や背骨、上腕骨が多くを占めました。

【骨折後の死亡率と介護の必要性】

大腿骨骨折は命に関わる重篤な外傷です。調査によると、骨折から1年以内の死亡率は10%に達しました。これは高齢者の健康寿命を大きく縮める要因となります。

さらに、骨折前は介護保険の認定を受けていなかった人のうち、1年後には66.1%が新たに要支援・要介護認定を受けていました。つまり、骨折は「介護生活の始まり」になりやすいのです。

【治療の壁と今後の対策】

治療が進まない理由には、患者本人の拒否や通院困難、医師の判断などさまざまな要因がありました。

・患者の意思で治療を受けなかった人:22.8%
・通院できなかった人:30.3%
・整形外科以外の医師の判断で中止された例も18.5%に上りました。

このような現状を変えるには、「フラクチャーリエゾンサービス(FLS)」の全国展開が期待されています。FLSとは、骨折患者の再骨折を防ぐために、病院や地域が連携して継続的な治療や生活支援を行う仕組みです。

また、治療薬の選択にも改善の余地があります。現在、日本ではビタミンD単独投与が多く見られますが、ガイドラインでは骨密度改善効果の高い「デノスマブ」や「ゾレドロン酸」、「テリパラチド」などが推奨されています。これらは服薬回数が少なく、継続しやすい点でも有利です。

まとめ:骨折後の未来を変えるには「治療継続」と「予防」が鍵

大腿骨骨折は高齢者の生活に大きな打撃を与える一方で、適切な治療と支援によって再骨折や要介護のリスクを大幅に減らすことができます。

治療の第一歩は「知ること」です。家族や本人が骨粗しょう症のリスクを理解し、骨折をきっかけに確実な治療につなげることが重要です。

引用文献

Inage K, Kondo N, Komatsubara S, et al. Current status of patients with hip fracture in Japan: A nationwide survey. J Orthop Sci. 2025. https://doi.org/10.1016/j.jos.2025.05.014

当院でも骨粗鬆症の検査と治療は可能です。気になる方はお気軽にお声かけ下さい。