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バランス訓練より効果大?在宅エアロバイクでSARA改善―小脳性運動失調症
小脳の障害で生じる「ふらつき」や「ぎこちなさ」は、生活の質を大きく下げます。最新のランダム化試験で、在宅の高強度有酸素運動が、従来の在宅バランス訓練より、症状改善に優れていたと報告されました(JAMA Neurology, 2025年9月14日オンライン掲載)。主要評価はSARAという重症度スケールで、数値が下がるほど良い状態を示します。
SARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)は、歩行・姿勢・協調運動などを40点満点で評価し、1点の改善でも臨床的に意味があるとされます。VO₂maxは体力(最大酸素摂取量)の指標で、数字が大きいほど持久力が高い、と覚えてください。
【小脳性運動失調症×有酸素運動:エビデンスの要点】
本試験は在宅での「高強度有酸素運動」と「バランス訓練」を比較しました。6か月時点でSARAは有酸素群−2.4点、バランス群−0.9点と、有酸素群がより大きく改善しました。統計モデルでも有酸素群はSARA(β−1.53)、疲労(β−9.38)、VO₂max(β+4.26)のいずれも有意に優れていました(P≤.001)。試験は単施設、評価者盲検、在宅介入で行われました。
さらに重要なのは「継続」です。1年時点でトレーニングを続けた人はSARA改善を維持(−3.81点)できましたが、中断・減量した人はベースライン付近へ戻りました。効果を出して終わりではなく、“出し続ける”仕組みづくりが鍵だと読み取れます。
【やり方と安全性:在宅・高強度有酸素トレの実像】
介入は「週5回×各30分」。予測最大心拍の約85%まで上げる強度で、家庭用エアロバイクを用いました。心拍はスマートウォッチで管理し、5分のウォームアップ→30分本運動→5分のクールダウンという流れです。最初の6か月は隔週の電話サポートがあり、重篤な有害事象は報告されませんでした。
実務のコツとしては、(1)安定した座位での脚こぎに絞る、(2)心拍の「目標ゾーン」を外さない、(3)疲労感・睡眠・転倒歴を簡易記録する、の3点が有用です。可能ならクリニックで初期評価を受け、開始強度や禁忌の確認を行いましょう。試験はClinicalTrials.govに登録され、手順と条件が公開されています(NCT05002218)。
【臨床への示唆:バランス訓練は“補完”、有酸素は“土台”】
バランス訓練は転倒予防や代償の学習に役立つ一方、効果の大きさは有酸素群に及びませんでした。したがって、在宅リハの設計では、「高強度有酸素(持久力・疲労改善)」を土台に、「バランス訓練(姿勢・歩行の安定)」を重ねる“二刀流”が合理的です。
継続の仕掛けとして、週次の目標設定、見える化(心拍・歩数・時間)、家族・スタッフの応援、予約制サポート外来などが有効です。研究は単施設で症例数も62例と大規模ではありませんが、在宅・遠隔支援でも実施でき、SARA・疲労・体力が一体で改善した意義は大きいといえます。
薬物療法の少ない領域だからこそ、「運動処方の精度」を高めることが患者さんの自立支援につながる――今回の試験はその実用的な一歩になりました。
【引用情報(リンク)】
・Barbuto S, Lee S, Stein J, et al. Home Training for Cerebellar Ataxias: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurology. 2025; Online ahead of print. doi:10.1001/jamaneurol.2025.3421
https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/fullarticle/2838884
・ClinicalTrials.gov 登録情報:NCT05002218
https://clinicaltrials.gov/study/NCT05002218
【当院からのご案内】
那覇市「シーサー通り内科リハビリクリニック」では、小脳性運動失調を含む神経リハを、評価(SARA・歩行解析)から在宅運動処方まで一体化。エアロバイク+心拍モニタでの高強度有酸素プログラム、バランス訓練、Cognibike、脳神経超音波、CT評価、ショックウェーブなどを活用します。初期安全評価と個別目標設定、公式LINE・Web予約で継続をサポートします。
