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脳血管性認知症(VCID)の新基準VasCog-2解説|診断ポイントと予防
【脳血管性認知障害(VCID)とは】
脳血管性認知障害(VCID)は,脳の血管トラブルが原因で記憶や
注意,判断が落ちる状態の総称です。脳梗塞の後遺症だけでなく,
小さな梗塞や白質病変の蓄積でも徐々に進行します。早期には日常
生活は保たれても「段取りが遅い」「忘れやすい」が増えやすいの
が特徴です。いわゆる「脳血管性認知症(VaD)」はVCIDの重症段階
に当たり,軽い段階(vaMCI)から一連のスペクトラムで理解します。
2025年に国際専門家がまとめた「VasCog-2-WSO基準」は,この考え方
を整理し,診断手順を具体化しました。臨床で迷いやすい点を明確
化し,画像所見の扱いも標準化しています(STRIVE-2に準拠)。最新
基準は国際標準として各国での診療・研究の足並みをそろえる狙い
があります。詳しいポイントは,次の章でやさしく解説します。
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【新しい診断基準のポイント(VasCog-2)】
まず「本当に認知の低下があるか」を確認します。本人や家族の心
配に加え,テストでの客観的低下をみます。軽度は標準より1〜2SD
下,認知症レベルは2SD以上下が目安です。難しい言葉ですが,SDは
「平均からどのくらい外れているか」を示す物差しです。
次に「血管が主因か」を見極めます。①脳卒中後に3か月以上続く
認知低下がある,または②徐々に進むタイプで注意・処理速度や実
行機能の弱りが目立つ,のいずれかが手掛かりです。性格の無気力
化や感情の不安定,歩行のふらつきは補助的なヒントになります。
画像はMRI(なければCT)で判断します。鍵になるのは①戦略的部位
(例:視床など)の梗塞や広い梗塞,②複数のラクナ(小さな穴状
梗塞),③広範で融合した白質高信号(Fazekas2〜3相当),④脳出血
の存在です。これらが一つ以上あれば「血管性が主因」と考えやす
くなります。用語の要点は次の通りです。
ラクナ:直径15mm未満の小梗塞。多数なら神経回路の交通渋滞に。
白質高信号:脳の配線(白質)が傷んだ跡。濃い・広いほど信号伝
達が遅くなり,段取りや速さに影響します。Fazekasは広がりの目安。
確からしさは「Probable(有力)」「Possible(可能)」で表します。
有力は臨床と画像(または遺伝性小血管病の証拠)がそろう場合,
可能は画像などが未入手のときです。アルツハイマー型(AD)など
別原因が混ざることも多く,バイオマーカー(Aβやリン酸化タウ)
やドパミン画像で「混合型」を見抜く枠組みも整えられました。
さらに「前臨床/リスク段階」という新しい箱ができました。自覚
やテスト低下はないけれど,画像でCeVD(脳血管病変)が強い人を
拾い上げ,生活習慣の是正や経過観察につなげます。早めの手当て
で将来の発症リスクを下げることが目的です。
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【予防と受診の目安(チェックリスト付き)】
VCIDは生活習慣病対策がそのまま一次予防です。血圧は家庭血圧で
も上140/下90を超えない管理,糖尿病・脂質異常の治療継続,禁煙,
週150分の中等度運動(会話できる速歩),減塩と野菜果物・魚の摂
取,睡眠の最適化が基本線です。お酒は控えめに,脱水と便秘にも
注意しましょう。小さな脳梗塞を増やさないことが要です。
以下に自己点検の目安を挙げます。二つ以上当てはまれば受診推奨。
□ 以前より段取りが遅くなった/ミスが増えた(処理速度の低下)
□ 二つのことを同時に行うと混乱しやすい(注意の持続・分配)
□ 予定や支払い管理が負担になった(実行機能の弱り)
□ 歩きが小刻み・不安定になった/感情が揺れやすい(補助所見)
□ 脳卒中の既往がある/高血圧・糖尿病・喫煙などの危険因子が多い
受診では問診,簡易認知検査に加え,必要に応じてMRIで白質病変,
ラクナ,戦略的梗塞,微小出血の有無を確認します。画像異常だけ
では即「認知症」ではありませんが,強い異常があれば生活指導と
治療方針を早めに立てることができます。混合型が疑わしければ,
ADの血液マーカーやPET等を相談し,最も影響の大きい原因を見極め
ます。治療は危険因子の是正+リハビリで「脳の交通整理」を促進。
注意・処理速度や実行機能を意識した課題設定が効果的です。
――――
まとめ:VCIDは「速さ」と「段取り」の変化に敏感になることが早期
発見のコツです。VasCog-2基準は診断の道しるべを明確化し,画像と
症状のつながりを丁寧に読み解く助けになります。気になるサイン
が二つ以上あれば,まずは専門医にご相談ください。
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【参考文献】
VasCog-2-WSO Criteria Consortium. Revised Diagnostic Criteria for Vascular
Cognitive Impairment and Dementia—The VasCog-2-WSO Criteria. JAMA
Neurology. Published online Sept 16, 2025. doi:10.1001/jamaneurol.2025.3242
論文ページ(JAMA Network)
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