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一般内科循環器脳卒中脳神経内科

心臓病と血液サラサラの薬|アスピリン併用の利益とリスクをやさしく解説

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【はじめに:アスピリンと抗凝固薬の違い】
アスピリンは「血小板の働きを弱めて血栓をできにくくする」薬で、脳や心臓の
詰まり(動脈側)を防ぐ目的で使われます。
一方、ワルファリンやDOAC(ダビガトラン・リバーロキサバン等)は「凝固因子
を抑えて血を固まりにくくする」薬で、心房細動などで生じる血栓(静脈側や心
房由来)を防ぐ役割です。
両者は効く場所も仕組みも異なり、併用すると効果が重なって出血が増える恐れ
があるため、目的と時期を見極めた使い分けが重要になります。

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【最新研究:抗凝固薬内服中にアスピリンを足すとどうなる?】
フランスの多施設二重盲検ランダム化試験では、ステント留置後6か月以上経過し
た慢性冠症候群の患者さんで、長期の抗凝固療法を続けている方を対象に、
アスピリン追加(1日100mg)とプラセボを比較しました。
追跡2.2年の時点で主要複合アウトカム(心血管死・心筋梗塞・脳卒中・全身塞栓
・再血行再建・急性下肢虚血)は、アスピリン群で有意に多く、全死因死亡も増加
しました。
大出血はアスピリン群で約3倍に増え、試験は安全性の観点から早期中止となって
います。
すなわち「抗凝固薬が必要な慢性冠症候群」において、 routine でアスピリンを
足すことは、利益より害が上回る可能性が示されました。

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【実践:自己判断で中止しない/主治医と“目的と期間”を確認】
まず大前提として、薬の自己中止は危険です。
ステント直後など「血小板抑制が不可欠な時期」は、アスピリンや他の抗血小板薬
が命綱になります。
一方で、時期を過ぎて心房細動などの理由で抗凝固薬を続ける段階では、 routine
なアスピリン併用は出血や死亡の増加につながる可能性があります。
今の「目的(何を防ぎたいか)」「期間(いつまで必要か)」「代替(単剤化可
能か)」を、受診時に遠慮なく確認しましょう。
特に高齢・腎機能低下・消化管出血歴・転倒リスク・複数薬の併用は、出血を増や
す要因です。
PPI(胃薬)や血圧・腎機能の管理、体重・飲酒・NSAIDsの見直しで、出血リスク
を下げられることも少なくありません。
息切れ・胸痛・ふらつき・黒色便など気になる症状があれば、早めの相談が安心に
つながります。

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【生活の整え方:薬の“効き”を助ける心血管リスク低減術】
薬だけに頼らず「動脈硬化を進めない生活」を重ねると、心血管イベントを減らし
やすくなります。
食事は“質と量と順番”。野菜・海藻・きのこ→たんぱく質→主食の順で、主食は
精製度の低いもの(雑穀・全粒)を選びましょう。
運動は1日8000歩+速歩20分を目安に、週2〜3回の筋トレで“糖と脂質”の代謝を
底上げ。
禁煙は最優先、飲酒は控えめに。
睡眠時無呼吸や歯周病の治療も、全身の炎症負荷を下げるうえで見逃せません。
血圧・LDLコレステロール・血糖の“トリプル管理”は、心筋梗塞や脳卒中の再発
予防の礎です。
薬の目的と時期を主治医と共有しながら、生活の基盤を整えることが、安全で賢い
心血管ケアの近道です。

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【参考・引用】
・Aspirin in Patients with Chronic Coronary Syndrome Receiving Oral Anticoagulation.
N Engl J Med. 2025 Aug 31. doi:10.1056/NEJMoa2507532(AQUATIC試験 概要)
https://doi.org/10.1056/NEJMoa2507532 

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【当院からのお知らせ】
シーサー通り内科リハビリクリニック(那覇市)では、心血管リスク総合管理と
抗血栓療法のセカンドオピニオンを実施しています。
頸動脈エコーで動脈硬化を可視化し、CTで内臓脂肪や肺評価(LAA%)も可能。
薬の“目的・期間・代替”を明確化し、出血と再発のバランスを丁寧に調整します。
Web予約・オンライン診療に対応、駐車場あり。
公式サイト:https://www.shisa-clinic.com/