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脳神経内科

乗り物酔いは音楽で軽減できる?|最新研究と対策を医師が解説

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【乗り物酔いと音楽:最新研究の要点】
自動運転やVRの普及で、乗り物酔いの悩みは身近になりました。
近年は「音楽」が症状を和らげる手段として注目されています。

2025年の国際誌は、運転シミュレーターと脳波解析で検証しました。
被験者30人で酔いを誘発し、音楽の種類別に緩和効果を比較します。

結果は「やわらかい音楽」「楽しい音楽」が最も効果的でした。
酔いの程度を平均で約57%軽減し、対照より優れていました。

一方で「悲しい音楽」はむしろ控えめで、自然回復を下回りました。
「熱い/鼓舞系」は中等度で、場面により効果が揺れる印象でした。

脳の反応では後頭部のα帯域が改善時に高まり、客観指標と一致。
また複雑性(KC)は酔いが強いほど下がる関係が示されました。

重要なのは「個人差」と「文脈」です。万能処方はありませんが、
選曲の方向性を押さえると、手軽で副作用の少ない対策になります。

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【実践対策:プレイリストと環境の整え方】
①曲調の基本方針
テンポは中庸〜やや遅め、音量は会話ができる程度に抑えます。
メロディは滑らかで、急な強弱や不協和音の少ない曲を選びます。

②おすすめのジャンル例
アコースティック、ボサノヴァ、Lo-fi、アンビエント、クラシック。
歌詞は少なめが無難。心が弾む「明るめ」も候補に入れましょう。

③避けたい選曲の傾向
重いテーマのバラード、極端に悲哀的な曲、金属的で刺さる高音。
低音が強すぎるEDMや急変化の多い曲は様子を見て調整します。

④プレイリストの組み方
最初の10〜15分は“慣らし”でソフト。酔いやすい道は安定曲で。
体調が整えば、軽快で楽しい曲へ。変化は段階的に行いましょう。

⑤車内環境も“音楽の一部”
前を見て遠くに視線を置く、換気を保つ、姿勢は背もたれ深めに。
読書やスマホは控え、香りは弱めに。空腹/満腹の極端も避けます。

⑥同乗者へのひと言
「つらくなったらこの曲に戻すね」と合図を決め、安心感を作る。
主導権感覚があるだけで、酔いの不安が軽くなる人も多いです。

⑦子ども・高齢者への配慮
音量は低めから。歌詞が分かりやすい童謡風や器楽曲が無難です。
高齢者は補聴器のハウリングに注意し、耳の疲れを最小限に。

⑧VR酔いにも応用
没入前に1〜2曲で呼吸を整える、休憩は音楽で“地上”へ帰る合図。
視野を狭める設定と併用し、段階的に時間を延ばしましょう。

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【よくある疑問と受診の目安】
Q:薬と併用してよい?
A:市販薬や貼り薬との併用は一般に問題ありません。ただし眠気、
口渇など副作用がある薬も。初回は短時間で反応を確認しましょう。

Q:どれくらいで効く?
A:個人差がありますが、1曲(3〜5分)で“楽になる入口”を作れます。
効きが弱い日は、音量を下げ、テンポの遅い曲へ戻すのがコツです。

Q:悲しい曲が好きで落ち着くのですが…
A:好みは尊重しつつ、酔いが強い場面では避けてみる価値があります。
研究では対照より緩和が弱い傾向が報告されています。

Q:受診の目安は?
A:頻回の嘔吐、冷汗や立ちくらみの反復、耳鳴りや難聴を伴う場合、
片頭痛の悪化、神経症状(しびれ・複視など)があれば受診を。

Q:再発予防の生活ヒントは?
A:睡眠不足の解消、運動での前庭機能トレーニング、規則的な食事。
アルコールや強い香りは控えめに。音楽は“安心の型”を作りましょう。

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【参考・引用(リンク付き)】
・Li Y, Li Y, Li Y, et al. A study on the mitigating effect of different music
types on motion sickness based on EEG analysis. Front Hum Neurosci. 2025.
https://doi.org/10.3389/fnhum.2025.1636109 

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【当院からのお知らせ】
シーサー通り内科リハビリクリニック(那覇市)では、脳神経内科専門医が、片頭痛や自律神経の評価も含めて総合的に支援します。
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