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寝不足だけじゃない!睡眠障害と脳卒中リスクの真実

私たちの健康は「よく眠ること」に大きく支えられています。しかし、いびきや無呼吸、不眠などの睡眠障害は決して珍しいものではありません。最近の研究では、特定の睡眠障害が脳卒中のリスクを高める可能性が示されています。本記事では、最新の科学的根拠をもとに「何が危険で、何をすればよいのか」を一般の方にもわかりやすく解説します。

【睡眠障害と脳卒中の関係】
米国NHANESの大規模データと遺伝統計学(メンデルランダム化)を組み合わせた最新研究によると、睡眠障害がある人はない人に比べ、脳卒中の既往が有意に多いことが示されました(調整後オッズ比1.83)。さらに遺伝的手法で因果関係を検証した結果、睡眠時無呼吸は脳卒中リスクを約10%上げ、非器質性の睡眠障害(いわゆる「不眠」など)もわずかにリスクを上げる可能性が示唆されました。一方で夢遊病は保護的に働く可能性がありました。これらは単なる関連にとどまらず、因果の可能性に踏み込んだ重要な知見です。

ここでの「メンデルランダム化」とは、遺伝子の偶然の配分を自然の「くじ引き」に見立てることで、年齢や生活習慣の偏り(交絡)や、病気が原因で睡眠が悪くなるという逆因果を減らし、因果関係を推定する方法です。観察研究の弱点を補うために使われ、近年の疫学研究では非常に重要な手法になっています。

【なぜリスクが高まるのか(メカニズム)】
睡眠時無呼吸では、夜間に呼吸が止まり、低酸素と再酸素化が繰り返されます。これにより交感神経が過剰に刺激され、血圧の上昇、血管内皮の障害、慢性炎症、血小板凝集の亢進といった変化が生じます。その結果、動脈硬化や血栓形成が進み、脳の血管が詰まりやすくなると考えられています。

非器質性の不眠などでは、ストレスによって自律神経やホルモンの調整が乱れ、炎症反応が高まりやすくなります。浅い眠りや分断された睡眠が続くことで、血圧・血糖・脂質などの生活習慣病の悪化を引き起こし、脳血管イベントの土台を作ると考えられます。

さらに、肥満・飲酒・喫煙・高血圧・糖尿病・心房細動といった既知の危険因子も重要です。睡眠障害はこれらを悪化させたり、相乗的に影響したりするため、総合的な管理が欠かせません。

【今日からできる予防と受診の目安】
まずは生活習慣の見直しです。就寝と起床の時刻をそろえる、寝る前のスマホ・飲酒・カフェインを控える、適正体重を目指す、有酸素運動を週150分程度行う、鼻づまりの改善を行うなど、基本的な対策が最も効果的です。

いびきが大きい、睡眠中に呼吸が止まると言われる、日中の強い眠気や頭痛・集中力低下がある。このような場合は、睡眠時無呼吸の検査をおすすめします。自宅でできる簡易検査(在宅睡眠検査)で重症度を把握し、必要に応じてCPAP(持続陽圧呼吸療法)などの治療を行います。治療により血圧や眠気が改善し、脳心血管イベントの抑制が期待できます。

不眠が3か月以上続く、寝つきに30分以上かかる、夜中に何度も起きてしまう場合は「不眠症」の可能性があります。まずは刺激制御法や睡眠制限法などの認知行動療法(薬に頼らない治療)が有効です。必要に応じて短期的な薬物療法を併用し、生活全体の立て直しを図ります。

高血圧、糖尿病、不整脈(心房細動)がある方や、脳卒中の家族歴がある方は、早めの睡眠評価を受ける価値があります。睡眠は「治療可能な危険因子」です。放置せず、検査と対策に踏み出すことが、将来の脳卒中予防につながります。

【まとめ】
最新の研究は、睡眠時無呼吸と一部の非器質性睡眠障害が脳卒中リスクを高める可能性を示しました。生活改善と早期検査・治療により、多くは是正可能です。「よく眠ること」は脳を守る第一歩です。気になる症状がある方は、ぜひ専門医にご相談ください。

【参考文献・リンク】
Huang F, Zeng L, Mou J, et al. Association between sleep disorders and risk of stroke: cross-sectional study & Mendelian randomization. Journal of Neurophysiology. 2025. DOI:10.1152/jn.00246.2025

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