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脳神経内科認知症

アルツハイマー病の「興奮」をどう抑える?ブレクスピプラゾールの効果と安全性

アルツハイマー病では,怒りっぽさや落ち着きのなさ,暴言・抵抗などの「興奮」がしばしば問題になります。患者さん本人のつらさに加え,介護者の負担や転倒リスク,入院・施設入所の増加につながるため,丁寧な対応が必要です。

【興奮の基礎知識と影響】
興奮はBPSD(行動・心理症状)の一つで,進行期ほど目立ちます。背景には痛み・不眠・環境変化・尿便の不快などが潜んでいることがあります。まずは原因探しと非薬物療法(環境調整・声かけ手技)が基本です。薬は「最後の手段」ではなく,リスクと益を秤にかけて併用します。国際的にも,非薬物療法を優先し,必要時に抗精神病薬を慎重に検討する方針が推奨されています。

【ブレクスピプラゾールの効果と安全性】
近年,セロトニン・ドーパミン調整薬ブレクスピプラゾールがアルツハイマー病の興奮で検証され,米国では適応が承認されました。開始0.5mg/日から段階的に増量し,目標2mg(最大3mg)とされています。用量調整は効果と副作用を見ながら進めます。

最新の系統的レビュー/メタ分析(5試験,計1770例)では,CMAI(興奮の質問票)合計が平均で約5.8点低下し,臨床全般重症度(CGI-S)もわずかに改善しました。一方でNPI(神経精神症状全般)は有意差が出ませんでした。予測区間は広く,症例により効果のばらつきが示唆されます。錐体外路症状や日中の眠気は増える傾向でしたが不確実性があります。「中等度の短期利益が期待できるが個別最適化が重要」という結論です。

個々のRCTでも12週間でCMAIが有意に改善した報告があり,実臨床の手応えは得つつありますが,長期成績はまだ検証途中です。日本人を含む拡張試験では概ね忍容性は許容範囲とされましたが,漫然とした継続を避け,定期的に有効性と副作用を見直します。

【使い方のポイントと注意(実践ガイド)】
①まず整える:痛み・便秘・尿路感染・低血糖・環境刺激を是正します。見守りの一貫性や活動プログラム,音楽・回想・運動療法も併用します。それでも危険・強い苦痛が続く時に薬を検討します。

②導入と増量:0.5mg/日で開始し1~2週ごとに漸増します。2mgで評価し,必要なら3mgまで。体重や腎機能,高齢の脆弱性,併用薬(鎮静薬・降圧薬など)を踏まえ個別に調整します。

③安全対策:黒枠警告(認知症関連精神病の死亡率上昇)を理解します。起立性低血圧・眠気・ふらつき・錐体外路症状に注意し,転倒予防の環境整備を同時に行います。せん妄や新たな混乱時は中止も含め医師に即相談します。定期的に「減量・中止トライアル」を計画し,最小有効用量を目指します。

④期待値の設定:効果は「劇的」ではなく「じわっと」改善が目安です。介護者のストレス軽減や身体介助のしやすさが指標になります。CMAIの数点改善でも生活の質が変わることがあります。

――まとめ――
ブレクスピプラゾールは,非薬物療法を土台に据えたうえで,危険・強い苦痛を伴う興奮に対し「短期的な穏やかな改善」を狙う選択肢になり得ます。長期の有効性と安全性は今後の課題です。処方時は個別化とモニタリングを徹底し,介護者支援と併走します。最新の情報とガイドラインを確認しながら活用していきましょう。

――当院のご案内――
那覇市の「シーサー通り内科リハビリクリニック」では,認知症診療(内科・脳神経内科)とリハビリを一体で提供しています。興奮への非薬物的介入の設計,服薬の可否判断,副作用監視,介護者向けの具体的な声かけ・環境調整のアドバイスまで支援いたします。受診・ご相談はWeb予約やLINEからお気軽にどうぞ。

【参考文献(リンク)】
1)CNS Drugs 2025:系統的レビュー/ベイズメタ分析(PubMed)
 Brexpiprazole for the Treatment of Agitation in Older Adults with AD. PMID: 40886227, doi:10.1007/s40263-025-01219-y
2)FDA Press Release(2023年5月11日):ADの興奮に対する初の承認薬
3)REXULTI 米国添付文書(最新版PDF)
4)JAMA Neurology 2023 RCT:12週でのCMAI改善
5)JAMDA 2024 レビュー:BPSD治療での非薬物療法優先の推奨