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肺炎後のもの忘れが心配…認知症との関係と予防策

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肺炎は「命に関わる急性疾患」という印象が強いですが、回復後の長期的な影響も無視できません。最近の大規模な研究の統合解析で、肺炎を経験した人は、その後の認知症リスクが有意に高まる可能性が示されました。本記事では、仕組みと予防・対策をやさしく解説し、受診の目安もまとめます。ご家族やご自身の健康管理にお役立てください。

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【要点】
・肺炎後は認知症の発症リスクが統計的に上昇する傾向があります。
・高齢者ほど影響を受けやすく、早期の観察と支援が重要です。
・ワクチン、退院後フォロー、生活習慣の見直しが実践的な対策です。

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【肺炎と認知症の関係は?:エビデンスの全体像】
最新の系統的レビューとメタ解析では、肺炎を経験した人は未経験者に比べて、その後に認知症を発症する危険が全体として約1.7倍に増えていました。特に65歳以上では上昇幅がやや大きく、高齢者の脆弱性が示唆されます。研究間のばらつきは大きいものの、地域や研究デザインを超えて一貫したシグナルが見られました。すなわち「原因」と断定はできない一方で、「注意すべき関連」は十分にある、という結論です。

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【なぜリスクが上がるの?:炎症・低酸素・脳の防御の破綻】
肺炎は肺だけの病気ではなく、全身炎症を引き起こします。発熱や倦怠感の背景では、サイトカインと呼ばれる炎症物質が増え、血液脳関門(脳を守るフィルター)が緩み、炎症刺激が脳内へ届きやすくなります。これが神経細胞の機能低下やシナプスの障害を招き、長期的な認知機能低下につながる可能性があります。また重症肺炎では血中酸素が下がり(低酸素)、脳のダメージが進みやすくなります。アルツハイマー病でみられる異常タンパク(アミロイドやタウ)の蓄積は炎症で悪化しうると考えられており、「感染が引き金となって病態が進む」仮説を支持する報告も増えています。これらは専門用語で語られがちですが、平たく言えば「肺炎の全身的ストレスが、脳に波及する」というイメージです。

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【今日からできる予防と退院後ケア:実践チェックリスト】
①ワクチンの活用
肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンは、肺炎の重症化を抑える効果が示されています。基礎疾患のある方や高齢者は、接種歴を医師と確認しましょう。

②退院後1〜3か月の「認知チェック」
退院直後は日常生活に戻るだけで精一杯ですが、落ち着いた時期に、家族や医療者と「最近のもの忘れ・注意力・段取り力」を点検しましょう。簡便な認知スクリーニング(数分の質問や時計描画など)でも早期の変化に気づけます。気になる場合は専門外来で精査を。

③リハビリと身体活動
体力低下を放置すると、脳への刺激も減ってしまいます。主治医の指示のもと、段階的な運動(歩行、軽い筋トレ、バランス訓練)と、呼吸リハビリを併用すると効果的です。息切れが強い日は無理をせず、「ゼロにしない」頻度維持を心がけましょう。

④睡眠・栄養・口腔ケア
十分な睡眠は脳の回復を助けます。たんぱく質・野菜・水分を意識し、嚥下機能が低下している場合は誤嚥予防の指導を受けましょう。歯科での定期ケアは再発性肺炎の予防にも役立ちます。

⑤薬の見直しと併存症管理
抗コリン作用の強い薬は、注意力低下を招くことがあります。持病(高血圧・糖尿病・心房細動など)のコントロールも同時に最適化しましょう。受診の際はお薬手帳を必ず持参してください。

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【受診の目安】
・退院後に「会話が通じにくい」「段取りが極端に苦手になった」などの変化が1〜2か月続く。
・肺炎後に転倒が増えた、昼夜逆転が強い、うつ傾向が目立つ。
・家族が「以前と違う」と感じる。――迷わず医療機関に相談を。

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【まとめ】
肺炎は回復して終わりではなく、その後の数か月〜数年の脳の健康を見守ることが大切です。ワクチンと生活習慣の土台づくり、退院後の早期チェック、必要に応じた専門外来への相談——この三本柱で、認知機能の低下を最小限に抑えていきましょう。

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【参考文献/Further reading】
Yan Z, Zhang M, Yu L, Zhang F. Does pneumonia increase the risk of dementia and cognitive decline?
A systematic review and meta-analysis. Annals of Medicine. 2025;57(1):2517376. doi:10.1080/07853890.2025.2517376

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【当院からのお知らせ】
シーサー通り内科リハビリクリニック(那覇)では、肺炎後の体力回復・呼吸リハビリ、認知機能スクリーニング、ワクチン相談(肺炎球菌・インフルエンザ)をワンストップでご提供します。退院後の不安や「前と違う」に気づいたら、お気軽にご相談ください。オンライン予約・LINE相談にも対応しています。