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心房細動×動脈硬化がある人の薬選び|併用療法のメリット・デメリット

【はじめに】
脳卒中を経験し、さらに心房細動がある方では、血液が固まりやすく再発の不安が大きくなります。「薬は増やした方が安心?」という声も多いですが、近年は“むやみに増やさない”選択が注目されています。

【背景】
抗血栓薬には大きく二つあります。抗凝固薬は血栓をできにくくし、抗血小板薬は血小板の集まりを抑えます。役割が違うため併用すれば効果が高そうに見えますが、同時に出血のリスクも確実に上がってしまいます。

【用語をやさしく】
心房細動は心臓が不規則に震える状態で、心臓内に血の塊が生じやすくなります。これが脳へ飛ぶと、脳の血管を塞いで脳梗塞を起こすことがあります。動脈硬化は血管が狭く固くなる状態を指します。

【課題】
心房細動と動脈硬化の両方がある患者さんでは、「抗凝固薬だけで十分か」「抗血小板薬も足すか」が長く議論されてきました。再発予防と出血の両立は、まさに天秤を見極める繊細な医療判断になります。

【最新研究の結論:併用は原則メリット薄】
2025年のランダム化試験では、日本の41施設で、抗凝固単剤と「抗凝固+抗血小板」の併用を比較。主要評価(虚血イベント+大出血)に差はなく、むしろ併用で出血が有意に増える結果でした。

【数字で理解】
主要複合アウトカムは、併用17.8%、単剤19.6%。虚血イベントは併用11.1%、単剤14.2%で差は小。しかし出血は併用19.5%、単剤8.6%と明確に増加。“足して安心”が、逆に危険へ傾く可能性を示します。

【解釈】
この結果は「全員に併用は不要」を意味しません。冠動脈ステント直後など、抗血小板薬が必須の時期は存在します。ただし漫然と長期併用を続けるよりも、適切なタイミングで単剤に戻す視点が重要です。

【誰に単剤?誰に要注意?】
多くの心房細動合併例では、まず抗凝固薬が柱です。とくにDOAC(新規経口抗凝固薬)は用量を守れば、脳梗塞再発と出血のバランスに優れた選択肢です。腎機能や年齢に合わせた“適正量”が鍵になります。

【個別化の視点】
一方、頸動脈や頭蓋内の高度狭窄、最近のステント、末梢動脈疾患の活動性など、動脈硬化が強い場合は、短期間の併用が必要な局面もあります。期間設定や、出血ハイリスク因子の把握が欠かせません。

【出血ハイリスク】
高齢、腎機能低下、消化管出血の既往、貧血、転倒、多剤併用、NSAIDs常用、アルコール過量――これらは出血を押し上げます。
PPI併用などの胃腸保護策も、医師と相談しながら適切に取り入れましょう。

【薬以外の“再発を減らす”コツ】
血圧は上140/下90未満を安定して目標に保つこと。LDLコレステロールは動脈硬化が強い方ほど厳格に。禁煙・節酒・減量・運動・睡眠・減塩は“最強の薬”。不整脈の自覚時は迷わず受診し、早期介入が大切です。

【飲み忘れ対策】
抗凝固薬は“一日でも抜ける”と血栓リスクが跳ねます。朝晩のルーティン化、ピルケース、スマホの通知など、自分に合う仕組みを作りましょう。旅行や手術前後は必ず医師へ。自己判断の休薬は避けてください。

【受診で聞くべきこと】
①自分は単剤と併用のどちらが基本か。②併用の理由と期間、終了の目安。③出血サイン(黒色便、血尿、歯ぐき出血、ふらつき)への対応。④他の薬との飲み合わせ。⑤生活習慣の優先順位――を遠慮なく確認しましょう。

【まとめ】
“薬を増やすほど安心”ではありません。最新エビデンスは「多くの症例で抗凝固単剤が基本、併用は慎重に」を示唆。出血を避けつつ再発を防ぐため、薬と生活の最適解を、主治医と対話しながらアップデートしていきましょう。

【当院からのご案内(コマーシャル)】
那覇市の「シーサー通り内科リハビリクリニック」では、脳卒中二次予防、心房細動診療、動脈硬化評価(頸動脈・頭蓋内超音波)、服薬設計、リハビリまで一体で支援。オンライン予約・LINE相談も対応。まずはご相談を。
公式サイト:https://www.shisa-clinic.com/

【参考・引用(リンク)】
JAMA Neurology. 2025 Oct 6. Optimal Antithrombotics for Ischemic Stroke and Concurrent Atrial Fibrillation and Atherosclerosis: RCT.
doi:10.1001/jamaneurol.2025.3662