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ニューロリハビリテーションリハビリテーション科

近未来のニューロリハビリ・集束超音波で脳をピンポイント刺激|TMSとの違いと最新研究をやさしく解説

経頭蓋超音波刺激(TUS:Transcranial Ultrasound Stimulation)は,頭蓋骨の外から微弱な超音波を当て,脳の活動を一時的に変化させる“非侵襲”の脳刺激法です。手術が不要で,深い場所まで届くのが特徴です。

【基礎知識:TUSの仕組みとTMS・DBSとの違い】
TUSは,数百kHz帯の音波を「焦点」に集めて,狙った脳領域の神経活動を調整します。焦点は米粒より小さく,周囲への影響を抑えやすい点が強みです。頭皮上から磁気を当てるTMSは主に大脳皮質が対象で,深部は苦手。一方,DBSは脳内に電極を留置する有効な治療ですが,外科手術を伴います。TUSは両者の中間に位置し,
「非侵襲で深部へ届く×空間的に絞れる」点で新しい選択肢となる可能性があります。用語の補足として,“非侵襲”は体を切らない・刺さない方法,“深部”は大脳皮質の奥にある視床や基底核などを指します。

【最新研究:256素子ヘルメットで深部をピンポイント】
2025年には,256素子の“ヘルメット型”アレイで,視床の外側膝状体(LGN)という小さな核を狙い撃ちし,fMRIでネットワーク反応を確認した研究が報告されました。視覚課題と同時にLGNへTUSを当てると,同側の一次視覚野の活動が有意に増加。偽刺激(超音波なし)では変化せず,近接する別核(内側背側核)を狙った対照条件でも効果は観察されませんでした。さらに「シータバースト」様式(短いパルスを5Hzで反復)では,
刺激後少なくとも約40分間,視覚野の応答が低下する“持続効果”も示されました。これは可塑性の方向性が条件で変わり得ることを示唆します(促通にも抑制にもなりうる)。研究は安全域を守りつつ,個別CT/MRIで位相補正を行い,焦点体積は数mm³規模と極めて小さいことが示されました。

【安全性と限界:いま何がわかっているか】
報告では,目標部位の圧力や温度上昇は安全基準内に収まり(脳内温度上昇は0.2℃未満,機械指数MI<1.9),MRI環境との両立も検証されています。ただし,長期反復での影響,疾患ごとの最適条件,個体差の扱いなど,臨床応用へ向けた課題は多く,現時点では“研究段階”です。家庭用や独自デバイスでの自己実施は危険で,医療機関・研究機関の監督下でのみ検討されるべきです。適応としては,振戦,うつ,不安,慢性疼痛,認知,運動・感覚リハビリなどが候補に挙がりますが,疾患別の有効性・持続性は今後の治験で検証が必要です。

【活用の未来:ニューロリハと行動変容の橋渡し】
焦点をミリ単位で絞れるTUSは,「どの回路をどう変えると行動がどう変わるか」を人で直接たどれる利点があり,評価系(fMRI,課題成績,ウェアラブル指標)と組合せれば“原因と結果”の検証が進みます。例えば,痛みや注意・意欲・運動学習に関わる回路を短時間だけ調整し,理学療法・作業療法・言語療法と同時に介入すれば,学習効率の最大化が期待できます。実臨床では安全管理,適応選定,アウトカム設計(何をどれだけ良くするか)
が鍵となります。患者さんにはベネフィットとリスクを丁寧に説明し,共同意思決定で段階的に進めます。

【まとめ:TUSは“非侵襲×深部×高精度”の有望株】
TUSは,TMSが苦手な深部に手が届き,DBSのような侵襲を避けつつ,ミリ単位で狙える点が最大の魅力です。一方で,最適プロトコルや長期効果は検証中。過度な期待よりも,「科学的エビデンスに基づく慎重な推進」と
「安全管理とアウトカム設計」が肝心です。今後の治験・実装研究を見ながら,患者さんの選択肢を広げます。

【参考・引用(リンク付き)】
Martin E, et al. Ultrasound system for precise neuromodulation of human deep brain circuits.
Nature Communications. 2025;16:8024. DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-025-63020-1

【当院からのご案内|シーサー通り内科リハビリクリニック(那覇市)】
当院は「一般内科・脳神経内科・リハビリ」を標榜。頭痛外来(CGRP製剤・ボトックス),脳卒中後の痙縮ケア,ニューロリハ(コグニバイク,耳介迷走神経刺激),骨密度測定,CTによる内臓脂肪・COPD評価などを提供。最新知見に基づく“安全で実用的なリハ設計”を重視しています。ご相談はWeb予約・LINEからお気軽にどうぞ。