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閉塞性動脈硬化症と脳梗塞を防ぐ鍵:リポタンパク(a)の最新知識と実践法
リポタンパク(a)(以下Lp(a))は、生まれつき決まりやすい特殊な脂質で、動脈硬化の独立したリスク因子です。LDLコレステロールとは別に働き、炎症や血栓にも関与し、心筋梗塞だけでなく脳や足の血管にも影響します。
日本ではLp(a)検査が十分に知られず、見逃されがちです。しかし一度の採血で把握でき、値は一生大きく変わりません。家族歴や若年での動脈硬化がある方は、特に要注意です。
【なぜLp(a)が注目されるのか】
Lp(a)はLDL様の粒子にアポ(a)というタンパクが結合した構造で、酸化リン脂質を運び、血管壁で炎症とプラーク形成を促します。その結果、冠動脈だけでなく頸動脈や下肢動脈でも病変が進み、脳梗塞や下肢の切断に至る合併症の土台となり得ます。
近年の大規模研究では、Lp(a)が高いほど下肢動脈疾患や頸動脈狭窄の発症が段階的に増えることが示されました。さらに既に下肢動脈疾患がある人では、重大な下肢イベントの危険が上昇し、管理強化の重要性が裏づけられています。Circulation誌2025年報告では、Lp(a)が75nmol/L上がるごとに下肢動脈疾患の発症リスクが約18%、頸動脈狭窄が約17%上昇、高Lp(a)例では重篤な下肢イベントも有意に増加しました。
生活習慣の改善やLDL低下で残る「残余リスク」の一部を、Lp(a)が担っている可能性が高く、見落とすべきではありません。「LDLは十分下がったのに心血管イベントが心配」な方ほど、Lp(a)の確認が次の一手になります。
【検査と数値の見方:nmol/Lを基本に】
Lp(a)は空腹不要の採血で測定でき、単位はnmol/Lが推奨です。一部施設ではmg/dL表示ですが、アイソフォーム差の影響でnmol/Lへの単純換算はできません。結果票の単位を確認しましょう。
どの値から「高い」とするかは研究や指針で幅がありますが、多くの研究で150nmol/L以上が「高値」と扱われます。この水準を超える場合、頸動脈や下肢動脈の評価を早め、危険因子の総合管理を一段引き上げる判断材料となります。
誰が測るべきかという点では、①若年発症の心血管病の家族歴、②本人の動脈硬化性疾患やその疑い、③LDL十分低下後の残余リスク、④原因不明の脳梗塞や下肢虚血既往――などで特に有用です。
一方で、Lp(a)は体重や食事でほぼ変わらないため、繰り返しの短期再検は不要です。まず一度測定し、他のリスクと合わせて全体像を評価することが現実的で、費用対効果にも適います。
【予防と治療:できることを最大化する】
現時点でLp(a)自体を大きく下げる一般診療の標準薬は限られ、専用治療は国際的に治験が進行中です。とはいえ打つ手は多く、「総リスクを下げる」ことで合併症を確実に減らせます。
第一に、禁煙は最重要です。喫煙は血栓・炎症を増悪させ、Lp(a)高値と相乗的にリスクを押し上げます。今日からやめる、それが最も効果の大きい介入で、再発予防にも直結します。
第二に、LDLコレステロールの厳格管理です。スタチンを基盤に、必要に応じて追加薬で「できる限り低く」を目指します。Lp(a)は下がりにくくても、LDL低下はイベント抑制に直結します。血圧・糖尿病・体重管理、睡眠・運動の最適化も同等に重要です。
第三に、血管の「見える化」です。頸動脈エコーでプラークや狭窄を評価し、必要に応じて下肢のABI(足首上腕血圧比)や、症状に応じた専門的検査へつなげます。早期発見が予後を変え、運動療法や薬物療法のタイミングを最適化できます。
症状がある方――歩行時のふくらはぎ痛やしびれ、冷感や創の治りにくさ、突発の言語障害・麻痺など――は放置厳禁です。すぐに医療機関へ。緊急度や専門治療の要否を見極めます。
最後に、家族歴が濃い場合は家族での検査も検討しましょう。遺伝的背景が強いからこそ、早期の把握と一次予防が有効です。一人の気づきが、家族全体の健康を守るきっかけになります。
【まとめ】
Lp(a)は「一生に一度は測る価値のある」動脈硬化リスクです。値が高ければ、生活習慣・LDL・血圧・血糖の総合最適化と、頸動脈や下肢血管の早期評価で、合併症リスクは下げられます。不安な方は、まず検査と現状把握から一歩を踏み出しましょう。
【参考文献】
1)Bellomo TR, et al. Circulation. 2025. Evaluation of Lipoprotein(a) as a Prognostic Marker of Extracoronary Atherosclerotic Vascular Disease Progression.
【当院のご案内】
シーサー通り内科リハビリクリニック(那覇市)では、Lp(a)を含む動脈硬化リスク評価、頸動脈エコー、生活習慣・薬物療法の最適化、ニューロリハビリを組み合わせた再発予防に力を入れています。
「一度Lp(a)を測っておきたい」「下肢のしびれが心配」など、お気軽にご相談ください。患者さん一人ひとりに合わせて、やさしく、具体的に、続けられる計画をご提案します。
