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脳の修復力を高めるには?多発性硬化症と加齢のポイント整理
【はじめに】
多発性硬化症(MS)は、神経を包む“髄鞘(ずいしょう)”が壊れる病気です。
壊れた髄鞘が再び作られる「再髄鞘化」は、症状の回復や進行抑制に重要です。
近年、この再髄鞘化と“年齢(老化)”の関係が注目され、研究が進んでいます。
この記事では、一般の方向けに最新の要点をやさしく整理してご紹介します。
【再確認:言葉の意味】
髄鞘は電線のビニール被覆のように、信号を速く正確に伝える役割を担います。
再髄鞘化は、傷んだ被覆を修理し直す働きで、回復の基盤となる現象です。
OPC(前駆細胞)は、修理担当の“職人の卵”で、成熟し髄鞘を作る細胞になります。
MRIや視覚誘発電位(VEP)は、修復の度合いを間接的に測る手がかりです。
【本題の結論】
年齢が上がるほど再髄鞘化の“起こりやすさ”は全体として下がる傾向があります。
ただし「何歳を超えたらもう無理」という線引きは、現時点では確認されていません。
脳の“部位”によって回復のしやすさが異なり、皮質は高齢でも回復する例があります。
一方で慢性化した古い病変では、回復が進みにくいことが分かっています。
【測定のむずかしさ】
通常のMRIでは、炎症や軸索損傷の影響と再髄鞘化を完全に分けて見分けられません。
そこで、MTRやMWFといった“より専門的なMRI指標”が用いられています。
VEPは視覚経路の伝導速度をみる検査で、回復が進むと潜時が短くなる傾向です。
ただし加齢自体でもVEPは遅くなるため、年齢補正した解釈が重要になります。
【子どもと大人の違い】
小児MSでは、成人に比べて修復の割合が高くみえる報告が増えています。
脳の発達期は“もともと髄鞘を作る力”が強く、修復にも追い風になるためです。
ただし比較条件や測定法が様々で、万能の結論として断言はできません。
それでも「若いほど回復しやすい」は、概ね整合する知見が多い領域です。
【場所による違い】
同じ人でも、病変の「場所」により再髄鞘化の進みやすさが違うと示されています。
皮質(大脳の表層)は高齢でも回復がみられる一方、脳室周囲などは不利になりがち。
これは“周囲環境”や“炎症の質”が、職人(OPC)の働きやすさを左右するためです。
結果として、個人差・部位差・病変の新旧が絡み合う複雑な姿になります。
【臨床試験から分かること】
再髄鞘化をねらう薬剤(例:ベキサロテン、クレマスチンなど)の試験も進展中です。
一部では若年ほど指標改善が大きい傾向が示され、年齢の影響が示唆されています。
一方、急性期の炎症がある場面では、高齢でも薬の効果が見えやすい可能性も。
“いつ投与するか”“どの病変で試すか”は、年齢と並ぶ重要な設計ポイントです。
【年齢=あきらめ、ではない】
OPCの“老化様変化”は、動物研究で部分的に可逆化できる報告も現れています。
メトホルミンなど代謝経路に働く薬で、細胞の若返り様サインが改善した例があります。
人での最終結論はこれからですが、「生物学的年齢」は調整可能性が話題です。
生活習慣や併存症の管理で、修復の土台を整える考え方も理にかないます。
【生活のヒント】
禁煙、適度な運動、睡眠の質改善、血圧や血糖の管理は、神経の健康を支えます。
再髄鞘化そのものを直接増やす証明は限定的でも、“土台作り”の価値は高いです。
欠乏が疑われる場合のビタミンD補充は担当医と相談し、過量は避けましょう。
再発予防薬の継続や感染予防も、修復をじゃまする要因を減らす意味で大切です。
【かかりつけ医に相談を】
画像や症状の変化、年齢、生活背景を総合して“あなたに合う作戦”を作ります。
急性期の視神経炎などは、回復の窓が限られるため、早めの受診が鍵になります。
一方で慢性期でも、リハビリで機能の引き出しを増やし、日常を守れることがあります。
薬物療法+生活+リハビリの三本柱で、長期的な見通しを一緒に整えましょう。
【まとめ】
再髄鞘化はMSの回復と進行抑制の要で、年齢の影響は“減衰傾向だが可塑的”です。
部位差や病変の新旧、個人差が絡むため、単純な年齢カットオフは存在しません。
治療のタイミング設計、画像・電気生理の指標選び、生活基盤の整備が肝要です。
「いまの自分にできる最善」を積み上げることが、将来の選択肢を広げます。
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シーサー通り内科リハビリクリニック(那覇市)は、内科・脳神経内科・リハビリに対応。
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【参考・引用(一般向け)】
・Mukherjee T, et al. Ageing and remyelination failure in MS. Brain, 2025.
