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頭部外傷(TBI)でALSは増える?JAMA最新データをやさしく解説|症状の見分け方と受診の目安
外傷性脳損傷(TBI)と筋萎縮性側索硬化症(ALS)の関連は、近年の大きな関心事です。最新の大規模研究では、TBI後2年以内にALSの診断が増えて見える一方、2年を過ぎると差が薄れる、という“時間依存”の結果が示されました。本記事では研究の要点と、日常で気をつけたいサイン、受診の目安をやさしく解説します。
【なぜ話題か:TBIとALSの“関連”を正しく理解】
TBIは転倒や交通事故、スポーツ外傷で起こる頭のケガです。ALSは運動神経が主に障害され、筋力低下ややせ細り、嚥下や呼吸の障害へ進む病気です。過去の研究では、TBIとALSの関連が“あるかもしれない”と示されてきましたが、規模の小ささや方法の違いから結論は一致していませんでした。
【研究のポイント:リスクは“発症直前”に偏る可能性】
英国の電子カルテを用いた後ろ向きコホート研究では、TBI歴のある成人8万5690人と、年齢・性別・地域をそろえた対照25万7070人を比較し、最大16年間追跡しました。その結果、観察期間全体ではALSのハザード比は約2.6でしたが、これは一様ではなく、TBI後2年以内で約6.2と最も高く、2年を超えると差は弱まりました。研究者は“逆因果(リバースコーザリティ)”の可能性を指摘しています。つまり、ALSのごく初期のふらつきや転倒しやすさが先にあり、その結果としてTBIが起き、その後にALS診断が確定するケースが含まれているかもしれない、という考え方です。この解釈は、ALS診断までに平均9か月〜2年以上を要するという過去報告とも矛盾しません。(主要結果の出典:JAMA Network Open 2025年10月掲載のコホート研究。)
【受診の目安:このサインが続いたら専門医へ】
“TBIのせいでALSになる”と短絡的に考える必要はありません。ただし、次のようなサインが数週間〜数か月単位で進行性に続くときは、神経内科での評価をおすすめします。①片手のつまみ動作が苦手になる、箸が持ちにくい、②足がつまずきやすい、階段で力が入りにくい、③かすれ声やむせが増える、④痩せてきた、のような“左右差のある筋力低下や巧緻運動の低下”。画像や血液検査だけで確定はできないため、経過の聴取と身体診察、必要に応じて神経伝導検査や筋電図を行います。TBI後であっても、症状の“持続と進行”が鍵です。
【日常でできること:転倒予防と体調モニタリング】
まずは転倒を防ぐ環境づくりが大切です。段差に滑り止めを貼る、夜間は常夜灯を活用する、視力・靴・薬の見直しを行う、といった地道な対策が効果的です。スポーツではヘルメットや適切な防具を着用し、受傷後は無理な復帰を避けて医療者の指示に従いましょう。また、TBI後2年程度は“歩き方や声、手の細かな動き”に変化がないかを家族と一緒に観察すると安心です。心配な変化が続くときは早めに相談してください。
【まとめ】
TBI後にALS診断が相対的に多く見えるのは、ALSのごく早期症状が先行し転倒などを招く“逆因果”の影響が大きい可能性があります。恐れすぎず、しかし進行性のサインには注意を払い、必要時に神経内科へ。最新知見を踏まえ、安全と安心の両立を目指しましょう。
【参考文献・リンク】
Zhu X, Russell ER, Lyall DM, et al. Traumatic Brain Injury and Risk of Amyotrophic Lateral Sclerosis. JAMA Network Open. 2025;8(10):e2535119. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.35119
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2025.35119
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2812871
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那覇市の「シーサー通り内科リハビリクリニック」では、一般内科・脳神経内科・リハビリを一体化し、頭痛やしびれ、ふらつき、もの忘れの評価からニューロリハビリまで切れ目なく対応します。胸部AI読影、骨密度、超音波、CTによる内臓脂肪・COPD評価、脳神経超音波にも対応。Web問診・予約、公式LINEでスムーズに受診いただけます。受診の迷いもお気軽にご相談ください。
