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心不全で寿命を延ばすカギは薬の「順番」?SGLT2阻害薬を第三の柱とする理由とは
【心不全と「左室駆出率低下」の基礎知識】
「心不全」とは心臓のポンプ機能が落ちてしまい
全身に十分な血液を送れなくなった状態を指します。
息切れやむくみ、だるさが続き「年のせいかな」と
見過ごされがちですが、命に関わる病気です。
その中でも「左室駆出率低下心不全(HFrEF)」は
特に重いタイプで、心臓の収縮力が弱くなっています。
左室駆出率とは、一回の拍動でどれくらい血液を
押し出せているかを%で表した指標です。
正常はおよそ50〜60%以上ですが、HFrEFでは
40%以下まで下がっていることが多くなります。
海外のデータではHFrEFの5年生存率は
25%未満と報告されており、油断できません。
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そのため、単に症状を抑えるだけでなく
「寿命を延ばす薬」をできるだけ早く使うことが重要です。
現在のガイドラインでは、HFrEFでは次の4つの薬を
「四本柱(クアドラプルセラピー)」として推奨しています。
①レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARB/ACE阻害薬等)
②β遮断薬(心拍を落ち着かせる薬)
③MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬:スピロノラクトン等)
④SGLT2阻害薬(元々は糖尿病薬として登場した薬)
理想はこれら4種類を早期に導入することですが
現実には「一つずつ増やす」ことも少なくありません。
そこで問題になるのが「三つ目の薬を入れるとき
どれを優先したらよいのか?」という点です。
【SGLT2阻害薬とMRAを比べたデンマークの大規模研究】
今回ご紹介するのはデンマーク全国のデータを使い
SGLT2阻害薬とMRAを直接比べた観察研究です。
対象は左室駆出率40%以下のHFrEF患者さんで
45歳以上、すでに①RASIと②β遮断薬を内服中の方です。
ここに三つ目の心不全治療薬として
「MRAを開始した群」と「SGLT2阻害薬を開始した群」を比較しました。
MRAはスピロノラクトンとエプレレノンが使われ
SGLT2阻害薬はダパグリフロジンとエンパグリフロジンが使用されました。
登録期間は2020年7月〜2023年で、最終的に
MRA新規開始4185人、SGLT2阻害薬新規開始2565人が解析されました。
年齢の平均は両群とも71歳前後、男性が約7割で
左室駆出率の平均も29%台と、重めの心不全です。
統計学的な調整(傾向スコアと重み付け)により
背景因子がなるべく揃うように工夫されています。
一番大事な評価項目は「全死亡」で
どちらの薬を先に入れた方が亡くなりにくいかを見ています。
その結果、MRA先行群に比べてSGLT2阻害薬先行群では
死亡リスクが約30%低いという結果でした(HR 0.70)。
人数に直すと、1年間100人をフォローした場合に
およそ2人分の死亡が減る計算になります。
心血管死亡と心不全入院を合わせた複合評価でも
SGLT2阻害薬の方が有利(HR 0.83)という結果でした。
心血管死亡だけで見るとリスクは35%低下(HR 0.65)と
こちらもSGLT2阻害薬に軍配が上がっています。
一方で「心不全入院」単独のリスクは
SGLT2阻害薬とMRAで大きな差は出ませんでした。
糖尿病の有無や発症からの期間など、さまざまな
サブグループで見ても大きな偏りはありませんでした。
もちろん、この研究はランダム化比較試験ではなく
実臨床データを用いた観察研究という点に注意が必要です。
血圧や生活習慣など、すべてを完璧に揃えることはできず
「測れていない差」が結果に影響している可能性もあります。
それでも全国規模のレジストリを使い
数千人を解析したという点は非常に価値があります。
【日常診療へのメッセージと患者さんへのアドバイス】
この研究から言える大きなメッセージは
「三つ目の薬を入れるならSGLT2阻害薬を優先してよさそう」
という点です。
理想は最終的に四本柱すべてを導入することですが
現実には血圧・腎機能・副作用などの制限があります。
SGLT2阻害薬は用量調整が少なく、カリウム上昇も
比較的起こりにくい点が、日常診療では強みになります。
一方、MRAは非常に有効な薬ですが、高カリウム血症や
腎機能悪化に注意が必要で、導入をためらう場面もあります。
今回の結果は「SGLT2阻害薬を先に入れておくことで
その後MRAも入れやすくなるかもしれない」という
現場の感覚とも合致しています。
患者さんの目線から言うと、大切なのは
「どの薬を飲むか」を一人で悩みすぎないことです。
心不全治療は、年齢・合併症・腎機能・血圧など
さまざまな要素を総合的に見て決める必要があります。
インターネットの情報だけで「この薬が一番いい」と判断せず
必ず主治医と相談して、自分に合った治療を選びましょう。
また、薬だけでなく「塩分控えめの食事」「体重チェック」
「無理のない運動」「禁煙・節酒」も同じくらい重要です。
薬の飲み忘れや自己中断は、再入院や悪化の
大きな原因になりますので、気になる副作用があれば
我慢せず早めに相談してください。
今後も、薬の組み合わせや開始の順番に関する研究が進み
より安全で効果的な心不全治療が確立されていくと期待されます。
■参考文献
- Svanström H, Mkoma GF, Hviid A, Pasternak B.
Initiation of SGLT2 inhibitors versus mineralocorticoid receptor antagonists
as third-line therapy in heart failure with reduced ejection fraction:
a nationwide cohort study.
The Lancet Regional Health – Europe. 2026;60:101510.
https://doi.org/10.1016/j.lanepe.2025.101510
■シーサー通り内科リハビリクリニックからのお知らせ
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心不全や動脈硬化の予防・治療にも力を入れています。
息切れが気になる方、足のむくみや体重増加が続く方
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