ブログ

脳卒中脳神経内科

卵円孔開存(PFO)があると減圧症リスクが上がる?潜水前に知るべき重要知識

【卵円孔開存(PFO)とは?】

卵円孔開存(PFO)とは、心臓の右心房と左心房を隔てる壁にある小さな穴が、生まれたあとも閉じずに残っている状態のことです。
通常、出生後は自然に閉じる穴ですが、約25~30%の成人にこの「隠れた通路」が残っているとされています。

このPFOがあると、肺を経由せずに静脈の血液が動脈へ直接流れることがあり、これが血栓や気泡の移動を引き起こす可能性があるため、脳梗塞や減圧症のリスクと関連があると考えられています。

【PFOと減圧症の関係性:最新研究から】

2023年に発表された韓国の前向きコホート研究(Annals of Internal Medicine誌)では、経験豊富なスキューバダイバー100名を対象に、PFOの有無と減圧症(DCI: Decompression Illness)の関連が調査されました。

この研究では、被験者全員に経食道心エコー+生理食塩水バブルテストが行われ、PFOの有無とリスク分類(ハイリスク・ローリスク)が判定されました。

その結果、PFOがあったのは68名で、そのうち37名がハイリスクと判断されました。そして、平均28.7か月の追跡期間中に、ハイリスクPFO群でのみ減圧症が有意に発生(10,000人ダイブあたり8.4件)していたことが明らかになりました。

特に注目すべきは、ハイリスクPFOがあると減圧症のリスクが9倍以上に上がる(オッズ比9.34、95%CI: 1.95–44.88)という点です。

一方、ローリスクPFOの人では有意な関連は見られませんでしたが、サンプル数が少なく結論は出ていません。

【PFOを持つダイバーはどうすべきか?】

この研究結果から導かれる重要なポイントは、PFO、特にハイリスクタイプを持つダイバーは減圧症に対して非常に敏感であるということです。

PFOを持っているかどうかは通常の健診ではわかりませんが、心エコー検査(特にバブルテスト付きの経食道エコー)で診断が可能です。

・もしPFOがあり、特にハイリスクと診断された場合は:
 - 潜水を控える
 - より安全で保守的な潜水プロトコル(浅めの潜水・浮上速度を極めてゆっくり)を採用する
 - 減圧停止をしっかり行う
 などの対策が必要になります。

また、近年ではPFO閉鎖術(カテーテルによる閉鎖手術)も選択肢のひとつとして検討されています。これは、特に脳梗塞や繰り返す減圧症がある方に対して適応になることがあります。

【まとめ:命を守るために知っておきたい潜水リスク】

スキューバダイビングは楽しく魅力的なアクティビティですが、体の中では大きな圧力変化にさらされています。
今回の研究により、PFOを持つ方、とくにハイリスク型の方は減圧症を起こしやすいことが改めて明らかになりました。

ダイバーやこれから始めようとしている方は、一度ご自身の心臓の状態をチェックしてみるのも、事故予防の第一歩かもしれません。
特に「ダイビング後にめまい」「手足のしびれ」「呼吸苦」などがあった方は、減圧症だけでなくPFOの有無についても調べておく価値があります。

【引用文献】

Lee HJ, Lim DS, Lee J, et al. Decompression Illness in Divers With or Without Patent Foramen Ovale: A Cohort Study. Ann Intern Med. 2023;176(7):934-939. doi:10.7326/M23-0260