認知症・物忘れ

認知症について

認知症とは、加齢や病気などが原因で脳の働きが低下し、記憶や判断力、行動に支障が出てくる病気です。脳の神経細胞が死んだり、情報のやりとりがうまくいかなくなることで、日常生活に影響が出ます。ただし意識ははっきりしているのが特徴です。
脳は私たちの「心と体の司令塔」。その働きがうまくいかなくなると、精神的な変化や身体の動きのトラブルがあらわれてきます。また、認知症の前段階として「軽度認知障害(MCI)」という状態もあり、これは早期に気づいて対処すれば改善が期待できるケースもあります。認知症やMCIは、早期発見・早期対応がとても大切です。

こんな症状に気づいたら早めに受診しましょう

  • 何度も同じことを言ったり聞いたりする
  • 洋服をうまく着られなくなった
  • 置き忘れやしまい忘れが目立つ
  • 夜中に急に起きだして騒いだ
  • 物の名前が出てこなくなった
  • 性格が変化した
  • お薬を飲み忘れる事が多くなった
  • お金の管理が難しくなった
  • だらしなくなった
  • 約束を忘れてしまう
  • ささいなことで怒りっぽくなった
  • 物を盗まれたと人を非難する

認知症の種類

  • MCI(軽度認知障害)

    「最近もの忘れが気になる」「でも日常生活は問題ない」──そんな方は『軽度認知障害(MCI)』かもしれません。MCIは認知症の一歩手前の状態で、日本に約400万人いるとされています。5年で約40%が認知症に進行すると言われていますが、生活習慣の見直しや専門医のサポートにより、30〜40%の方は正常な状態に戻るという報告もあります。さらに近年では、アルツハイマー病の前段階と診断されれば、新薬(レカネマブなど)の使用が可能になるケースも出てきました。早期発見・早期対応が、脳の健康と未来を守る鍵となります。

  • アルツハイマー型認知症

    認知症の約6割を占めるアルツハイマー型認知症は、異常なたんぱく質が脳にたまり、神経細胞が壊れて脳が萎縮していく病気です。ゆっくり進行し、最初はもの忘れや判断力の低下が目立ちますが、ご本人に自覚がないまま、にこやかに過ごされていることもあります。最近では、早期の段階であれば、新しい薬(レカネマブなど)による治療が可能なケースも出てきました。大切なのは早めに気づくこと。家族や周囲の気づきが、未来の生活を守る第一歩となります。

  • 脳血管性認知症

    認知症の約2割を占める「脳血管性認知症」は、脳梗塞や脳出血など、脳の血管の病気が原因で起こります。脳の細胞に十分な血流や栄養が届かなくなることで、細胞の機能が低下し、認知機能にも影響が出ます。障害を受けた脳の場所によって症状は異なり、「感情のコントロールがきかなくなる(泣き上戸・笑い上戸など)」といった感情失禁や、「やる気が出ない」「表情が乏しい」など、うつ病と似た症状が出ることもあります。早期に専門医に相談することが大切です。

  • レビー小体型認知症

    レビー小体型認知症は、認知症の約20%を占めるタイプで、脳に「レビー小体」と呼ばれる異常なたんぱく質がたまることで神経細胞が壊れていきます。特徴的な症状として、パーキンソン病のような動きにくさ、現実にはないものが見える幻視、繰り返す転倒、日によって体調や認知の状態が変動する「日内変動」などが挙げられます。また、寝ているときに暴れる「レム睡眠行動異常」も見られることがあります。これらの症状に気づいたときは、専門医の診察を受けることが大切です。

  • 前頭側頭型認知症(ピック病)

    前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮していくことで起こる神経変性疾患で、認知症全体の数%を占めます。特徴的なのは、もの忘れよりも「性格や行動の変化」が目立つことです。自発性がなくなり、何もせずぼんやり過ごす、同じ言葉や行動を繰り返す、反社会的な発言や行動が目立つようになる、食べ物へのこだわりが強くなるといった症状が現れます。比較的若い年齢から始まることもあり、家族が最初に気づくケースも少なくありません。

  • 治療可能な認知症

    すべての認知症が「治らない」わけではありません。実は約10%は、適切な治療によって改善が期待できる「治療可能な認知症」です。甲状腺機能低下症やビタミンB1・B12欠乏、神経梅毒、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫などが代表的です。これらの病気が隠れていないかを見極めるには、専門的な検査が必要です。「年齢のせい」と思い込まず、早めに医療機関を受診することが、健康な暮らしを守る第一歩になります。

認知症の治療法

  • 薬物療法

    認知症の治療は「進行を抑えること」が主な目的です。アルツハイマー型認知症では、中核症状(記憶力や判断力の低下など)をやわらげる薬として、脳内の神経伝達物質のバランスを整える「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」や、「NMDA受容体拮抗薬」などがあります。これらは認知機能の維持だけでなく、生活機能や死亡率の改善にもつながるとされています。MCIや軽度の認知症段階であれば、アミロイドβの蓄積を抑える新薬(抗アミロイドβ抗体)による治療の可能性も広がっています。
    また、認知症に伴う不安・興奮・妄想といった周辺症状には抗精神薬や抗うつ薬を使用することがあります。脳血管性認知症の場合は、脳梗塞や出血の再発によって悪化することが多く、血圧や糖尿病、心臓病など動脈硬化のリスク因子を適切に管理することが進行予防の鍵となります。必要に応じて、再発予防のための脳血管保護薬を使用することもあります。
    いずれの場合も、できるだけ早い段階で治療を開始することが、その後の生活の質(QOL)を守る上で非常に重要です。「年齢のせいかな」と思っても、早期に相談することが未来の自分を守る第一歩となります。

  • 非薬物療法(リハビリテーションなど)

    認知症治療では、薬による治療とあわせて、脳を活性化する「非薬物療法」も非常に重要です。たとえ認知症と診断されても、できることはたくさんあります。たとえば、洗濯物をたたむ・食器を片づけるなど、家庭の中で役割や出番をつくることで、本人の意欲や自信を引き出すことができます。
    また、「回想法(昔の話をする)」「認知リハビリ(音読や計算など)」「音楽療法」「園芸療法」「リアリティ・オリエンテーション(自分の状況を理解する練習)」なども効果的とされています。ウォーキングなどの運動療法や、動物とのふれあい(ペット療法)も、脳と心によい刺激になります。
    一方で、何もしないまま一日中テレビを見て過ごしたり、外出せず人と関わらない生活が続いたりすることは、認知症の進行を早める可能性があると報告されています。家族や友人と会話を楽しんだり、どこかへ出かけたり、趣味に熱中したりすることは、脳の働きを保つためにとても大切です。
    「何もできない」と思わず、日常の中に“脳へのよい刺激”を取り入れる工夫を重ねることで、よりよい生活が長く続けられると期待されています。