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脳神経内科認知症

難聴は「耳」だけの問題じゃない?中年期の難聴と認知症リスク・脳の老化を徹底解説

【難聴と認知症リスクの関係】
「年齢のせいだから、少し聞こえにくくても仕方ない」と思っていませんか。実は加齢性難聴は、認知症や脳の老化と深く関係している可能性が、最新の大規模コホート研究から示されています。今回ご紹介するのは、米国フラミンガム心臓研究の参加者2178人を対象にした解析です。中年期に聴力検査を受け、その後MRIによる脳の評価や詳細な認知機能検査、さらに平均15年間の認知症の発症状況を追跡した、非常に信頼性の高い前向きコホート研究といえます。

ここでいう難聴は、オージオメータという機器で測定した「純音聴力検査」の結果をもとに判定されました。500~4000Hzの聞き取りやすさを平均した値(dBHL:デシベル聴力レベル)で、0~16dBを正常、16~26dBを軽度(slight)、26~40dBを軽い難聴(mild)、40dB超を中等度以上と分類します。一見「ちょっと聞こえづらい」程度と思われる軽い難聴でも、まったく難聴のない人と比べると、将来認知症を発症するリスクが約1.7倍に高まっていたと報告されています(ハザード比1.71)。さらに、認知症のなりやすさに関わる遺伝子型「APOE ε4アリル」を持つ人では、このリスク上昇が約2.9倍とより顕著であり、難聴と遺伝的素因が相乗的に働く可能性が示唆されました。

【脳の画像から見えた「難聴と脳の老化」】
今回の研究では、単に「認知症になったかどうか」だけでなく、MRIを用いて脳の構造変化も詳しく調べています。具体的には「全脳容積」「海馬容積」「白質病変量(白質高信号:WMH)」などを指標として、脳の老化の進み具合を評価しました。

その結果、軽い難聴以上の人は、正常またはごく軽い難聴の人に比べて、すでに中年期の時点で脳全体の体積が有意に小さいことが分かりました(全脳容積が約4mL少ない)。脳がやせ細る「脳萎縮」が、難聴のある人で先に進んでいる可能性があるという結果です。

さらに、加齢や動脈硬化にともなって脳の白い部分(白質)に現れる「白質高信号(WMH)」の増加も問題となります。WMHは、脳の細い血管の障害や微小な出血・梗塞の蓄積を反映すると考えられ、脳卒中や認知症のリスクと関連することが知られています。

本研究では、わずかな難聴(slight)を含め「少なくとも軽度の難聴」がある人で、白質高信号の増加スピードが有意に速いことが示されました。特に女性ではこの傾向が強く、難聴が脳の血管障害や白質のダメージと関係している可能性が指摘されています。

また、認知機能検査では「実行機能」とよばれる能力―注意を切り替えたり、順番を考えながら作業を進めたりする力―の低下が、難聴のある人ほど早く進むことがわかりました。これは「文章を聞き取りながらメモを取る」「運転中に周囲の音情報を処理する」といった日常動作に直結する能力で、生活の質や安全性にも関わる重要な機能です。興味深いことに、自覚的に「聞こえが悪い」と感じている人でも、客観的な聴力検査ではまだ中等度難聴に至っていない段階から、白質病変の増加や実行機能の低下が始まっていました。つまり、「検査上は軽度」とされる段階から、すでに脳の老化サインが出ている可能性があります。

【今日からできる難聴・認知症予防と受診のすすめ】
では、なぜ難聴が脳の老化や認知症リスクと結びつくのでしょうか。はっきりした因果関係はまだ証明されていませんが、いくつかの仮説があります。ひとつは「社会的孤立」です。聞き取りにくさが続くと、会話が億劫になり、人付き合いが減り、うつ傾向や認知刺激の低下につながると考えられます。もうひとつは「脳の過負荷」です。聞こえにくい音を理解しようとするために、脳が常に余分な努力を強いられ、他の認知機能に割けるリソースが減ってしまう可能性が指摘されています。また、今回の研究のように白質病変の増加がみられることから、血管性のダメージが耳と脳の両方に影響している可能性も考えられます。一方で、嬉しい兆しもあります。難聴がある人のなかでも「補聴器を使用している人」では、補聴器を使っていない人と比べて認知症リスクが低い傾向が報告されています。本研究でも、少なくとも軽度の難聴がある人のうち、補聴器を使用していない人では認知症リスクが1.72倍と有意に高かった一方、補聴器を使っている人ではリスク上昇が小さい傾向が示されました。

もちろん、補聴器が「認知症を確実に予防する」と言い切る段階ではありません。しかし、「聞こえを整えること」が脳への負担を減らし、コミュニケーションや社会活動を保つことで、結果的に認知症リスクを下げる可能性は十分に考えられます。

そこで大切になるのが「早めの聴力チェック」です。次のようなサインがあれば、一度耳鼻科や専門医への相談をおすすめします。テレビの音が家族より大きくないと聞き取りづらい、会話で聞き返しが増えた、電話の声がこもって聞こえる、複数人の会話になると内容が追えない、などです。

また、難聴と同じく認知症リスクに関わる「血圧・糖尿病・喫煙」などの動脈硬化リスクの管理も重要です。この研究では、こうした血管リスク要因を統計的に調整しても、難聴と認知症の関連は残っていましたが、全身の血管を守ることは耳と脳の両方の健康にプラスになると考えられます。

最後に、「耳のケア=脳のケア」という視点を持つことが大切です。定期的な聴力検査、適切な補聴器の検討、生活習慣の見直し、そして趣味や運動、社会活動を通じた「脳への良い刺激」を、できる範囲で少しずつ積み重ねていきましょう。

【引用・参考文献】
Kolo FB, Lu S, Beiser AS, et al. Hearing Loss, Brain Structure, Cognition, and Dementia Risk in the Framingham Heart Study. JAMA Network Open. 2025;8(11):e2539209. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.39209 https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2815016)

【当院からのお知らせ】
シーサー通り内科リハビリクリニック(那覇市)では、内科・脳神経内科・リハビリテーションの専門医が、物忘れや歩行のふらつきなど総合的な脳の健康チェックを行っています。将来の認知症予防が心配な方は、お気軽にご相談ください。聴力評価、脳の画像検査、動脈硬化や生活習慣病のチェック、リハビリや生活指導まで、チームでサポートいたします。