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糖尿病+軽い脳梗塞・TIAの再発予防:リラグルチドに期待できることと注意点

【軽い脳梗塞・TIAと糖尿病 なぜ再発しやすいのか】

「軽い脳梗塞(マイナー脳梗塞)」や「一過性脳虚血発作(TIA)」は、一見すると症状が軽く、数日で良くなってしまうことも多い病気です。

しかし、発症後90日以内に5〜8%が再び脳卒中を起こすとされており、「軽いから安心」できる病気ではありません。特に糖尿病を持つ方では、再発リスクがさらに高くなることが分かっています。

糖尿病があると、血糖が高いだけでなく、血管の炎症、動脈硬化、血液の固まりやすさ(血栓傾向)など、脳梗塞を起こしやすい条件が重なります。そのため、同じ「軽い脳梗塞・TIA」でも、糖尿病がある人はそうでない人より再発リスクが大きくなります。

従来、こうした患者さんには、抗血小板薬(アスピリンやクロピドグレルなど)、血圧や脂質のコントロール、生活習慣改善が標準治療として行われてきました。ただし、ガイドライン通りに治療を行っても、一定の「残りのリスク(レジデュアルリスク)」が残ることが問題になっています。

そこで注目されているのが、糖尿病治療薬でありながら心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクを下げることが分かってきた「GLP-1受容体作動薬」という薬のグループです。その代表格の一つが「リラグルチド」です。

【リラグルチドとは? LAMP試験のデザインと主な結果】

GLP-1受容体作動薬は、もともと腸から分泌されるホルモン「GLP-1」に似た働きをする注射薬です。血糖値が高いときにだけインスリン分泌を増やし、低血糖を起こしにくいのが特徴です。また、体重減少や血圧・脂質の改善、血管の炎症を抑える作用など、全身の「代謝」を整える効果が期待されています。

今回紹介するLAMP試験は、中国27施設で行われたランダム化比較試験です。糖尿病を持ち、「軽い脳梗塞(NIHSS≦3)」または「高リスクTIA(ABCD2スコア≧4)」を発症した50歳以上の患者さん636人が対象になりました。発症から24時間以内に、標準治療+リラグルチド群と、標準治療のみの群に1対1で割り付けています。

リラグルチド群では、最初の1週間は0.6mg/日、その後1.2mg/日、最終的に1.8mg/日まで増量し、90日間投与しました。どちらの群も、抗血小板薬、脂質低下薬、降圧薬などの「脳卒中二次予防薬」はガイドラインに沿って同様に使用されています。

主な評価項目は「90日以内の脳卒中再発(虚血性・出血性のいずれも含む)」です。その結果、リラグルチド群では7.9%(317人中25人)、対照群では13.8%(319人中44人)が再発しており、ハザード比は0.56(95%信頼区間0.34〜0.91、P=0.02)と、有意に再発リスクが低下していました。つまり、この試験内では、およそ4〜5割程度の相対的なリスク減少が示唆されたことになります。

機能予後(modified Rankin Scale:mRS)でも差が見られました。90日時点でmRS 0〜1(ほぼ後遺症なし)の「極めて良好な状態」に回復した人は、リラグルチド群87.3%、対照群77.8%で、オッズ比1.95(95%信頼区間1.28〜3.00、P=0.002)と、リラグルチド群で良好な予後が多い結果でした。

安全性については、症候性頭蓋内出血や全死亡の頻度は両群でほぼ同じでした。一方で、リラグルチド群では「吐き気・嘔吐・下痢などの消化器症状」が18.9%と、対照群の4.1%より明らかに多く、これが中止理由になったケースもあります。低血糖の頻度は両群でほぼ差はありませんでした。

ただし、この試験には重要な限界もあります。予定していた症例数(1708例)に達する前に資金面の問題で早期終了しており、実際に登録されたのは636例にとどまりました。そのため「統計学的なパワー不足」の可能性があり、今回の結果が偶然である可能性も完全には否定できません。研究者自身も「有望だが、より大規模な試験での検証が必要」と慎重な結論を述べています。

さらに、対象は「中国人」「軽症の脳梗塞・TIA」「血栓溶解療法や血管内治療を受けていない人」に限られているため、日本人や中等症以上の脳梗塞、tPAや血管内治療を受けた患者さんに、そのまま当てはめることはできません。この点も大切な前提条件です。

【患者さんにとっての意味 今できる対策と今後の展望】

今回のLAMP試験は、「糖尿病を持つ軽い脳梗塞・TIAの患者さんにおいて、リラグルチドを早期から使うと、脳卒中再発が少なくなり、3か月後の生活の質も良くなるかもしれない」という、非常に興味深い結果を示しました。

一方で、まだ一つの試験に過ぎず、症例数も予定より少ないため、「すぐにすべての患者さんで標準治療をリラグルチドに切り替える」段階ではありません。現時点では、ガイドラインが推奨する抗血小板薬、降圧薬、脂質低下薬、血糖コントロール、禁煙・食事・運動などが、再発予防の“土台”であることに変わりはありません。

では、リラグルチドのようなGLP-1受容体作動薬は、どのような場面で期待されるのでしょうか。まず、糖尿病があり、体重や血糖のコントロールが不十分な方では、もともと心筋梗塞や脳卒中のリスクを下げる目的でGLP-1受容体作動薬が選択されることがあります。そこに今回のLAMP試験の結果が加わることで、「軽い脳梗塞・TIA後の二次予防」という新しい可能性が見えてきたと言えます。

ただし、誰にでも向く薬ではありません。注射薬であること、消化器症状が出やすいこと、費用の問題、国内での適応や保険診療上の位置づけなど、現実的なハードルも少なくありません。実際の治療として使うかどうかは、主治医と十分に相談しながら、全身状態や他の薬とのバランスを見て決める必要があります。

患者さんご自身にできることとしては、次のようなポイントが重要です。

・血圧・血糖・コレステロールを目標値内に保つ(家庭血圧や血糖自己測定も活用)
・禁煙(喫煙は再発リスクをさらに高めます)
・適度な運動と体重管理
・減塩とバランスの良い食事(野菜・魚・食物繊維を意識)
・処方された薬を自己判断で中止しない
・顔のゆがみ、片側の手足の麻痺、ろれつが回らない、急な視野障害など「脳卒中のサイン」が出たら、迷わず救急要請

こうした基本を守ったうえで、「どの糖尿病治療薬を選ぶか」「GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬など心血管リスクにも効きそうな薬をどう組み合わせるか」は、専門医がエビデンスを踏まえて提案していく時代になりつつあります。今回のLAMP試験は、その選択肢を広げる一歩と考えて良いでしょう。

【当院での脳卒中・糖尿病ケアのご案内】

シーサー通り内科リハビリクリニック(那覇市)では、一般内科・脳神経内科・リハビリテーションを一体化させ、「脳卒中と糖尿病を同時に診る」ことを重視しています。軽い脳梗塞・TIA後の再発予防や、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病管理、脳梗塞後のリハビリテーションまで、総合的にサポートします。

最新のエビデンスを踏まえつつ、患者さん一人ひとりのライフスタイルやご希望に合わせた治療を一緒に考えていきます。「軽い脳梗塞だったから大丈夫と言われたけれど不安」「糖尿病と脳卒中の両方が心配」という方は、どうぞお気軽にご相談ください。

【参考文献・リンク】

1.Zhu H, Yang B, Lu L, et al. Liraglutide in Acute Minor Ischemic Stroke or High-Risk Transient Ischemic Attack With Type 2 Diabetes: The LAMP Randomized Clinical Trial. JAMA Internal Medicine. 2025; Published online November 3, 2025. doi:10.1001/jamainternmed.2025.5684
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/10.1001/jamainternmed.2025.5684