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めまいで救急受診したらどんな点滴をする?ジフェンヒドラミン単独vs併用療法をわかりやすく解説
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【急性めまいはなぜつらい?いつ受診すべきか】
急に天井や周りがぐるぐる回るように感じる「めまい」は、多くの人が一度は経験するつらい症状です。吐き気や嘔吐を伴うことも多く、立てないほどひどいと救急外来を受診する方も少なくありません。
めまいには大きく「中枢性」と「末梢性」があります。脳卒中など脳そのものが原因の中枢性は命に関わることがあり、早期発見がとても重要です。一方、耳の奥(内耳)や前庭神経のトラブルが原因の末梢性めまいは命に直接かかわることは少ないものの、症状は非常に強く日常生活に大きな支障が出ます。
「ろれつが回らない」「片方の手足が動かしづらい」「激しい頭痛を伴う」「意識がぼんやりする」などを伴うめまいは、中枢性の可能性があり救急車を呼んで構いません。単なる“ぐるぐる感”だけと自己判断せず、少しでもおかしいと感じたら早めの受診が大切です。
【点滴で使う薬:ジフェンヒドラミンと重炭酸ナトリウム】
救急外来で末梢性めまいと判断された場合、多くの国では「抗ヒスタミン薬」と呼ばれる薬を点滴で使うことがあります。今回の研究で使用されたジフェンヒドラミンもその一つで、めまいの不快な信号を抑えることで症状を和らげる薬です。ただし副作用として「強い眠気」「だるさ」が出やすく、高齢の方ではふらつきや転倒リスクが問題になります。
一方、東アジア(台湾・日本など)では、古くから「重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム)」の点滴をめまいに使うことがあります。もともとは血液の酸性度を調整したり、高カリウム血症などに使う薬ですが、耳や脳の血流を変化させたり、めまいに関わる神経の興奮を抑えることで症状を軽くするのではないかと考えられています。
重炭酸ナトリウムは、抗ヒスタミン薬のような強い眠気は起こしにくいとされますが、点滴のときに「注射部位がしみる」「腕が痛い」といった注入時の不快感が出やすいという別の弱点があります。また、心不全や腎臓病のある方では、体内の水分や塩分バランスに影響するため注意が必要です。
【最新の臨床研究:単独 vs 併用で何が違う?】
2025年に台湾の大学病院救急外来で行われたランダム化比較試験では、急性の末梢性めまいで受診した患者さんを三つのグループに分けました。①ジフェンヒドラミン単独、②重炭酸ナトリウム単独、③ジフェンヒドラミン+重炭酸ナトリウム併用、の三つを比較し、60分後のめまいのつらさがどれくらい改善したかを10段階スケールで評価しています。
その結果、いずれの治療でもめまいは大きく改善していましたが、併用療法のグループ③が、ジフェンヒドラミン単独①よりも有意に強い改善を示しました。また、「まだつらいので追加の薬(レスキュー治療)が必要」となった人の割合も、併用群では少なく済んでいました。
一方で、副作用も重要なポイントです。眠気・だるさ(傾眠)は、ジフェンヒドラミンを含むグループ(①と③)で7割以上にみられ、中等度以上の強い眠気も少なくありませんでした。重炭酸ナトリウム単独グループ②では眠気は少ないものの、点滴のときの痛み・違和感は③を含め重炭酸ナトリウムを使ったグループで多くなっていました。
また、若い男性で、これまでめまいの既往がない人ほど、ジフェンヒドラミン単独よりも「重炭酸ナトリウム単独」や「併用療法」のほうがよく効いている傾向も報告されています。ただし、このあたりはまだ症例数が十分とはいえず、今後の研究が必要な部分です。
【患者さんにとってのメリット・デメリット】
一般の患者さん目線で整理すると、ジフェンヒドラミン単独のメリットは「世界的にも標準的に使われているめまいの薬である」「吐き気にもある程度効く」点です。一方で「強い眠気が出やすく、帰宅後もしばらく車の運転ができない」「ふらつきで転倒しやすくなる」など、日常生活への影響は無視できません。
重炭酸ナトリウムは「眠気が出にくい」「めまいの強さそのものをジフェンヒドラミンと同程度、あるいは条件によってはそれ以上に抑えられる可能性がある」点が魅力です。その一方で「点滴中の痛みがやや多い」「心臓や腎臓が悪い人には使いにくい」「どのタイプのめまいにどれくらい効くか、まだ十分にわかっていない」といった課題があります。
今回の研究では、緊急度の高い中枢性めまい(脳卒中など)は除外されており、「安全に末梢性めまいと判断できた患者さんの中で、どの薬が症状を早く楽にするか」を比較したものです。ですから、「どの薬を点滴してもらうか」よりも前に、「危険なめまいかどうかをきちんと見極めてもらうこと」が何より重要だと理解しておいてください。
【今後の課題と、日本での実際の診療】
この研究は一つの病院で行われたもので、重炭酸ナトリウムの投与方法や患者さんの背景も限られています。めまいの原因となる具体的な病名(良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、メニエール病など)ごとの効果の違いも、まだ十分には分かっていません。今後は、多施設での研究や、日本人を対象とした検討が進むことが期待されます。
日本の現場では、めまいに対する点滴薬の選択は施設や担当医によって少しずつ異なります。抗ヒスタミン薬や制吐薬を中心に、必要に応じて輸液や整位法(耳石置換法)などを組み合わせるのが一般的です。重炭酸ナトリウムを routine に使っている施設は多くありませんが、「眠気をできるだけ避けたい患者さん」に対して、将来的に選択肢の一つになり得る可能性があります。
ただし、論文の結果はあくまで「平均的な傾向」を示したものです。薬の選択は、年齢・持病・現在飲んでいる薬・仕事や運転の状況などを総合的に考えて決める必要があります。インターネット情報だけで「この薬にしてほしい」と決めつけるのではなく、診察した医師と一緒に最適な治療方法を相談することが大切です。
【シーサー通り内科リハビリクリニックからのご案内】
当院(那覇市・シーサー通り内科リハビリクリニック)では、めまい・ふらつきの診療に力を入れています。脳神経内科専門医として、まず「脳梗塞など命に関わるめまいではないか」を丁寧にチェックし、そのうえで末梢性めまいに対しては、薬物治療だけでなく、耳石置換法やリハビリテーションも含めた総合的なケアを行っています。
「急にぐるぐるして不安になった」「検査は必要かだけ知りたい」「めまいを繰り返して仕事や家事に支障が出ている」など、お困りの方はお気軽にご相談ください。予約や受診方法は当院ホームページや公式LINEからもご確認いただけます。地域のみなさまの不安を少しでも早く和らげ、“転ばぬ先の杖”としてお役に立てれば幸いです。
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【参考文献・リンク】
- Chi CY, et al. Diphenhydramine, Sodium Bicarbonate, or Combination for Acute Peripheral Vertigo: A Randomized Clinical Trial. JAMA Network Open. 2025;8(11):e2541472.
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2025.41472
