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「片頭痛は生活の“いつもと違う日”に起こりやすい? 情報理論で読み解く頭痛トリガー」
【片頭痛と「トリガー」 なぜ見つけるのが難しいのか】
片頭痛をお持ちの方の多くが,「自分の頭痛の原因(トリガー)を知りたい」と感じてい
ます。天気,寝不足,ストレス,アルコール,月経など,思い当たるものがいくつもある
という方も多いのではないでしょうか。
しかし実際には,「この日もコーヒーを飲んだけど頭痛は出なかった」「同じくらい忙し
かったのに先週は大丈夫だった」など,条件が似ていても頭痛が出たり出なかったりしま
す。そのため,「本当にこれが原因なのか?」と自信が持てず,自己判断だけでトリガーを
特定するのはとても難しい作業になります。
従来は,「片頭痛の人に多いトリガー一覧」をもとに,それぞれの要因と頭痛との関係を
1つずつ振り返る方法が中心でした。けれども,候補になる要因は何百種類にも及び,その
全部をきちんと検証することは現実的ではありません。
そこで近年,「個々のトリガーを1つずつ評価する」のではなく,「その日の生活全体が普段
とどれくらい違っていたか」という視点で,頭痛リスクをとらえようとする研究が行われて
います。そのキーワードが「情報理論」と「サプライズ度(surprisal)」です。
【“サプライズ度”とは? 情報理論で頭痛リスクを測る】
今回ご紹介するのは,JAMA Network Open という医学誌に2025年に掲載された研究です。
片頭痛を持つ109人を対象に,最大28日間,朝と晩の2回,スマホなどで詳しい生活日記をつけてもらいました。そこには睡眠時間・寝つき・気分,ストレスの強さ,食事や飲酒,
天気など,多数の「頭痛トリガー候補」が毎日記録されています。
研究チームは,それぞれの人の「いつもの生活パターン」からどれくらい外れている日か
を,情報理論の考え方を使って数値化しました。これが「サプライズ度(surprisal)」で,
簡単に言うと「その人にとってどれくらい“いつもと違う日”だったか」を表すスコアです。
具体的には,個々の要因ごとに「その人にとって珍しい値ほど点数が高くなる」ように計
算し,さらにそれらをまとめて1日の総合スコアにしています。例えば,普段は7時間寝ている人が,ある日は3時間睡眠で,しかも遅い時間に飲酒し,いつもより強いストレスを受けたとすると,その日は「サプライズ度の高い1日」となります。
このサプライズ度を,その後12時間と24時間の頭痛発生と結びつけて解析したところ,スコアが高いほど,近い将来に頭痛が起こる確率が上がることが分かりました。サプライズ度が1単位(1ビット)上がるごとに,12時間以内の頭痛リスクは約1.5〜1.8倍,24時間以内の頭痛リスクは約2倍に増えるという結果でした。
また,この関係は人によってかなりばらつきがありました。普段から頭痛が多い人では,
サプライズ度と頭痛リスクの結びつきがやや弱くなっていました。一方で,日ごとの変化に
敏感なタイプの人では,「いつもと違う日」がより強く頭痛に影響している可能性が示され
ています。
【生活リズムを整えて“いつも通り”を増やす 片頭痛との付き合い方】
この研究が教えてくれるポイントは,「特定の1つのトリガーを探し当てること」よりも,
「自分にとっての“いつもと違う日”を減らすこと」が,片頭痛の予防につながるかもしれ
ないという視点です。
例えば,次のような工夫は,サプライズ度を下げることにつながります。
・起床時間と就寝時間を,平日と休日で大きくずらさないようにする
・カフェインやアルコールの量を,日によって極端に変えないよう意識する
・食事を抜いたり,深夜にどか食いしたりといった「いつもと違う食事パターン」を減らす
・仕事や家事で忙しい日こそ,短時間でもリラックスできるルーティンを作る
また,自分にとって何が「サプライズ」になりやすいかを知るためには,頭痛日記が非常
に役立ちます。すべてを細かく書く必要はありませんが,「睡眠」「ストレス」「食事(特に
抜食や暴飲暴食)」「天気」「月経」など,よく知られた要因を簡単にメモしておくだけでも,
自分なりの傾向が見えてきます。
注意していただきたいのは,「この要因を完全に避けなければならない」という意味では
ないことです。むしろ,トリガーを恐れて生活の幅を狭めてしまうと,かえってストレスが
増え,頭痛に悪影響を与える場合もあります。大切なのは,「極端な変化を減らし,自分に
とって心地よい生活のリズムを増やす」というバランスです。
片頭痛は脳の過敏性と深く関わる病気であり,完全に発作をなくすことは難しい場合もあ
ります。それでも,予防薬や急性期治療薬,生活習慣の調整,ストレスマネジメントなどを
組み合わせることで,「頻度」と「つらさ」を減らすことは十分に可能です。かかりつけ医や
頭痛専門医と相談しながら,自分に合った管理方法を一緒に探していきましょう。
【引用・参考文献】
Turner DP, Patel T, Caplis E, Houle TT. Information-Theoretic Trigger Surprisal and Future Headache Activity. JAMA Network Open. 2025;8(11):e2542944. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.42944
URL https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/10.1001/jamanetworkopen.2025.42944
Pellegrino ABW, Davis-Martin RE, Houle TT, Turner DP, Smitherman TA. Perceived triggers of primary headache disorders: a meta-analysis. Cephalalgia. 2018;38(6):1188-1198.
Pavlovic JM, Buse DC, Sollars CM, Haut S, Lipton RB. Trigger factors and premonitory features of migraine attacks:summary of studies. Headache. 2014;54(10):1670-1679.
【シーサー通り内科リハビリクリニックからのご案内】
当院(那覇市・シーサー通り内科リハビリクリニック)では,片頭痛や緊張型頭痛,群発頭
痛などの頭痛診療に力を入れています。頭痛専門医としての経験に加え,脳神経内科・リハ
ビリテーションの視点から,生活習慣の見直しやリハビリ的アプローチも含めた総合的なサポートを行っています。「どの薬が自分に合うのか分からない」「トリガーが多すぎて困っている」「とにかく頭痛から少しでも解放されたい」と感じている方は,どうぞ一人で悩まずにご相談ください。Web予約・公式LINEからも受診相談が可能です。あなたの日常生活が少しでも“頭痛に振り回されない毎日”になるよう,スタッフ一同お手伝いさせていただきます。
