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脳梗塞・TIA後は要注意!睡眠時無呼吸と再発リスク、最新研究と対策まとめ

今回ご紹介するのは、米国退役軍人病院(VA)で行われた「脳卒中・TIA後の患者さんに睡眠時無呼吸の検査をどれだけ増やせるか」を調べた研究です。


難しそうなテーマですが、私たちの身近な「いびき」や「日中の眠気」と、命に関わる脳卒中がつながる大事なお話です。

【脳卒中と睡眠時無呼吸のこわい関係】

まず押さえておきたいのは、「脳卒中と睡眠時無呼吸症候群(OSA)」は切っても切れない関係にあるという点です。過去の研究では、脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の患者さんの約7割に睡眠時無呼吸が見つかったと報告されています。

睡眠時無呼吸とは、眠っている間に呼吸が何度も止まったり浅くなったりする病気です。
「いびきが大きい」「睡眠中に息が止まっていると言われる」「昼間ボーッとする」などが代表的なサインです。

問題なのは、これが「単なるいびき」では終わらないことです。
呼吸が止まると、そのたびに血圧が急に上がり、心臓や血管に大きな負担がかかります。
その結果、脳卒中の発症や再発、心筋梗塞、心不全、認知機能低下など、さまざまな合併症のリスクが上がることが分かっています。

さらに、脳卒中を起こしたあとに睡眠時無呼吸が放置されると、死亡率が高くなったり、リハビリの進み具合が悪くなったりすることも報告されています。
一方で、CPAP(シーパップ)という専用マスクで空気を送り込む治療を行うと、神経症状の改善や生存率の向上につながるとする報告も増えてきました。

しかし現実には、脳卒中患者さんの多くが、まだ睡眠検査も受けていなければ、治療にもつながっていません。「重要性は分かっているのに、現場で十分に実行されていない」――このギャップをどう埋めるかが今回の研究のテーマです。

【入院中に睡眠検査を増やす試み:ASAP研究のポイント】

今回紹介するASAP試験は、脳梗塞やTIAで入院した患者さんを対象に、「質改善プロジェクト(Quality Improvement:QI)」の力で、睡眠時無呼吸の検査をどれだけ増やせるかを検証した研究です。

米国VAの病院36施設が参加し、そのうち6施設が「介入サイト」、30施設が「通常診療サイト」として比較されました。
介入サイトでは、次のような取り組みが行われました。

  • オンラインでのキックオフミーティング
  • 各病院が自分たちの現状データを確認
  • 「どこにボトルネックがあるか」を洗い出し、具体的な改善策を話し合う
  • 電子カルテ上で脳卒中・TIA入院患者を自動的に拾い上げる仕組みづくり
  • 院内で使える睡眠検査機器(簡易検査)の導入や運用ルールづくり
  • 月1回のオンライン会議で、成功例・つまずき・工夫点を共有

つまり、「一律のマニュアル」を押しつけるのではなく、各病院が自分の状況に合わせたアクションプランを作り、継続的にブラッシュアップしていくスタイルです。

その結果は非常に印象的でした。
介入サイトでは、入院後30日以内に睡眠検査を受けた割合が、介入前はわずか2.1%だったのが、介入期間中には29.1%まで大きく増加しました。
一方、通常診療サイトでは、同じ期間を通して0.7〜2.2%程度と低いままでした。

論文中の図(図2)を見ると、介入サイトでは時間がたつにつれて検査率がじわじわと上がり、3つ目の期間では約4割近くまで到達している病院もあります。
実際に行われた検査は、多くが入院中に行う簡易型の睡眠検査で、約7割の患者さんに睡眠時無呼吸などの睡眠呼吸障害が見つかりました。

治療(CPAPなど)を30日以内に始められた人の割合も、0.3%から2.8%へと増加しましたが、こちらはまだ十分とは言えません。
入院期間が短いことや、機器供給の問題(CPAPリコール騒動)などもあり、検査までは進んでも「治療開始」まで持っていくのは簡単ではない、という現場の苦労も浮き彫りになりました。

【日本の医療現場と私たちにできること】

この研究はアメリカ退役軍人病院での結果であり、患者さんの多くが男性、高齢、基礎疾患も多いという特徴があります。
そのまま日本に当てはめることはできませんが、「脳卒中患者さんの睡眠時無呼吸をもっと真剣に診断しよう」というメッセージは、日本でも非常に重要です。

日本でも、脳梗塞やTIAの患者さんに睡眠時無呼吸が多いことは、既に他の研究で報告されています。
それでも、実際に入院中に睡眠検査を受けている方は決して多くありません。

では、私たち患者さん・ご家族にできることは何でしょうか。

1つめは、「脳卒中やTIAで入院した(あるいはしたことがある)方で、いびき・無呼吸・日中の強い眠気がある場合は、遠慮せず主治医に相談する」ことです。
「脳卒中で頭の病気だから、睡眠は関係ない」と思わず、「血管の病気と睡眠はつながっている」と考えていただくことが大切です。

2つめは、退院後も含めて「再発予防の一環として睡眠を整える」意識を持つことです。
高血圧・糖尿病・脂質異常症の治療、禁煙、運動、食事と並んで、「睡眠の質」も脳卒中予防の大事な柱です。

3つめは、地域の医療機関で「脳卒中と睡眠時無呼吸の両方に詳しいところ」を早めにかかりつけとして持っておくことです。脳卒中後は、その場限りの治療ではなく、長期的なフォローと再発予防が重要になります。

当院(シーサー通り内科リハビリクリニック)では、脳卒中・TIAの診療とともに、睡眠時無呼吸を含む生活習慣病・循環器リスクの評価と再発予防に力を入れています。
「脳梗塞後でいびきが気になる」「CPAPを勧められたが不安」「検査の必要があるか相談したい」といった場合も、お気軽にご相談ください。
脳神経内科専門医・動脈硬化専門医として、リハビリスタッフとも連携しながら、眠りと血管の両面からサポートさせていただきます。

【参考文献・リンク】

  1. Bravata DM, Perkins AJ, Myers LJ, et al. Quality Improvement Intervention to Increase Sleep Apnea Diagnostic Testing After Stroke and Transient Ischemic Attack: A Cluster Randomized Trial. JAMA Netw Open. 2025;8(11):e2543385. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.43385
    https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2025.43385
  2. Seiler A, Camilo M, Korostovtseva L, et al. Prevalence of sleep-disordered breathing after stroke and TIA: a meta-analysis. Neurology. 2019;92(7):e648–e654. doi:10.1212/WNL.0000000000006904
  3. Brill AK, Horvath T, Seiler A, et al. CPAP as treatment of sleep apnea after stroke: a meta-analysis of randomized trials. Neurology. 2018;90(14):e1222–e1230.
  4. Kleindorfer DO, Towfighi A, Chaturvedi S, et al. 2021 Guideline for the prevention of stroke in patients with stroke and transient ischemic attack. Stroke. 2021;52(7):e364–e467.