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「再生医療の最前線:iPS細胞でパーキンソン病が改善する時代へ」
iPS細胞でパーキンソン病に挑む!新たな治療法の臨床試験結果が明らかに
パーキンソン病は、高齢者を中心に発症する神経変性疾患の一つで、手足の震え(振戦)、筋肉のこわばり(固縮)、動作の遅れ(寡動)などを引き起こします。根本的な治療法はなく、進行を遅らせる薬剤治療が中心です。
そんな中、京都大学が実施した「iPS細胞を使った再生医療」の臨床試験が注目を集めています。本記事では、その研究成果を【治療の仕組み】【試験結果のポイント】【今後の展望】の3つの観点から、わかりやすく解説します。
【治療の仕組み】iPS細胞とは?なぜパーキンソン病に有効なのか
iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは、皮膚や血液の細胞に特定の遺伝子を導入してつくる「万能細胞」のことです。この細胞は、脳や神経、筋肉など、さまざまな細胞に変化させることができるため、再生医療への応用が進められています。
パーキンソン病は「黒質」と呼ばれる脳の領域にある「ドパミン神経」が減少することで発症します。今回の治療では、iPS細胞からつくった「ドパミン神経のもと(前駆細胞)」を、患者の脳の「線条体」に移植することで、失われた神経を補おうという試みが行われました。
【試験結果のポイント】副作用は?効果はあったの?
この研究は、京都大学で2018年に開始された第I/II相の臨床試験です。対象となったのは50~69歳のパーキンソン病患者7名。そのうち6名に両側の脳にiPS細胞由来のドパミン前駆細胞を移植しました。
注目すべき結果は以下の通りです。
- 安全性
入院や死亡に至るような重篤な副作用は一例もなく、移植後2年間で確認された73件の副作用の多くは軽度で、一過性のものでした。腫瘍化も見られませんでした。 - 症状の改善
評価指標である「MDS-UPDRS part III OFFスコア(薬なしの状態での運動機能)」が6人中4人で改善。特に高用量群では、脳内のドパミン合成量を示す18F-DOPA PETで平均44.7%の増加が見られました。 - 薬の量は維持
治療評価の妨げにならないよう、抗パーキンソン薬の量は変更せずに維持されました。 - 問題となるような異常運動(ジスキネジア)も最小限
以前の胎児脳組織を使った移植では問題となった「移植による異常運動(GIDs)」は本試験では見られず、これは細胞の選別(セロトニン神経を含まない)による効果と考えられます。
【今後の展望】治療の実用化は近い?誰に向いているの?
今回の研究成果は「iPS細胞を用いたパーキンソン病の再生医療が、一定の効果と安全性を持つ可能性がある」ことを実証した、世界的にも意義深い試験です。
ただし、以下の課題も残っています。
- 対象患者の選定が重要
年齢が若く、症状が軽いほど効果が出やすい可能性が示唆されています。今回最も効果が高かった患者は最年少(50代)で、MDS-UPDRSスコアも比較的軽度でした。 - 効果には個人差がある
ドパミン神経以外の障害が強い場合や進行が早いケースでは、十分な効果が得られない可能性があります。 - 長期的な追跡が必要
腫瘍化や慢性炎症などのリスク評価には、より長期の観察と病理解剖による評価が不可欠です。
とはいえ、今回の成果はパーキンソン病治療における大きな一歩です。将来的には、「自分の細胞から作ったiPS細胞を使う個別化医療」も期待されています。
まとめ:未来を変えるiPS細胞治療に期待
パーキンソン病に対するiPS細胞を用いた細胞移植治療は、大きな副作用もなく、安全性が高いこと、さらに一部の患者では明らかな症状の改善が見られたことが確認されました。
今後さらに症例数を増やし、二重盲検試験などで客観的な効果を検証する必要がありますが、再生医療の未来は確実に動き出しています。
引用 タイトル: Phase I/II trial of iPSC-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease
著者: Nobukatsu Sawamoto, Daisuke Doi, Etsuro Nakanishi, Masanori Sawamura, Takayuki Kikuchi, Hodaka Yamakado, Yosuke Taruno, Atsushi Shima, Yasutaka Fushimi, Tomohisa Okada, Tetsuhiro Kikuchi, Asuka Morizane, Satoe Hiramatsu, Takayuki Anazawa, Takero Shindo, Kentaro Ueno, Satoshi Morita, Yoshiki Arakawa, Yuji Nakamoto, Susumu Miyamoto, Ryosuke Takahashi, Jun Takahashi
掲載誌: Nature
公開日: 2025年4月16日
DOI: 10.1038/s41586-025-08700-0
URL: https://www.nature.com/articles/s41586-025-08700-0
