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多剤併用(ポリファーマシー)と認知症リスク:減らす前に知っておきたい注意点
【結論:多剤併用=悪ではない。大事なのは「薬の中身」】
「薬が多いと認知症が進むのでは」と不安な方は多いです。
確かに、薬が増えるほど副作用や飲み間違いの心配は上がります。
一方で近年、軽度認知障害(MCI)の高齢者では、
「薬が多いこと」自体が必ずしも悪いとは言い切れない、
という報告も出ています。
台湾のMCI高齢者237人を追跡した研究では、
5種類以上の処方薬を使う人(多剤併用)のほうが、
MCIから認知症へ進みにくかった、という結果でした。
この研究のポイントは、
「薬の数」より「目的に合った薬かどうか」が重要、
という視点を強く示したことです。
とはいえ、薬が増えればリスクも増えるのは事実です。
だからこそ、自己判断で急に減らすのではなく、
“中身を点検して整える”ことが現実的な第一歩になります。
【ポイント1:多剤併用はなぜ起きる?“病気が多い=薬が多い”の現実】
MCIの方は、高血圧や糖尿病、脂質異常症など、
複数の慢性疾患を抱えていることが珍しくありません。
病気が複数あると、それぞれに薬が必要になり、
気づけば5種類、6種類…と増えていきます。
研究でも、MCIの参加者の約46%が多剤併用でした。
そして多剤併用の人は、高血圧や脂質異常症などが多く、
全身管理のために薬が増えている背景が読み取れます。
つまり、薬が多いことは「不健康の証拠」ではなく、
「治療が必要な病気が多い」ことの反映でもあります。
ここを見落として、数だけで一律に減らそうとすると、
本来守るべき血圧や脂質の管理が崩れることもあります。
薬の整理は、まず「何のために飲んでいるか」を
1剤ずつ確認するところから始めるのが安全です。
【ポイント2:薬が多くても進みにくい?カギは“血管を守る薬”】
先ほどの研究では、多剤併用の人のほうが、
認知症へ進むリスクが低い(HR 0.49)と示されました。
さらに、薬の種類をみると、
降圧薬(血圧の薬)や脂質を下げる薬が、
進行リスクの低下と関連していました。
脳は血管の状態に強く影響されます。
血圧やコレステロールが高い状態が続くと、
小さな血管が傷み、脳の働きが落ちやすくなります。
だからこそ、必要な人が必要な治療を続けることは、
将来の認知機能を守る一つの戦略になり得ます。
ただし注意点もあります。
この研究は「観察研究」で、因果関係を断定できません。
また、多剤併用の人は受診回数が多く、
医療者のフォローが手厚い可能性もあります。
結論としては、
「薬が多い=すぐ減らす」ではなく、
「脳と血管を守る治療が保たれているか」を軸に、
整理するのが現実的です。
【ポイント3:減らすべき薬・残すべき薬の見分け方】
薬の整理で大切なのは、次の3ステップです。
①目的が不明な薬を洗い出す
「いつから飲んでいるかわからない薬」は要注意です。
目的が不明なら、続けるメリットも評価できません。
②副作用が認知機能に影響しやすい薬を点検する
眠気を強める薬、口が渇く薬、ふらつく薬などは、
生活の質を下げ、転倒やせん妄の原因にもなります。
(専門用語で“抗コリン作用”などが関係することがあります)
③“守る薬”は急にやめない
血圧、糖、脂質を守る薬は、状況により重要です。
急な中止は、脳梗塞や心血管イベントのリスクもあります。
薬を減らすこと自体が目的ではありません。
「必要な薬は続け、不要な薬は減らす」ことが目的です。
そのためには、お薬手帳(または薬の一覧)を持って、
医師・薬剤師と一緒に“棚卸し”するのが一番安全です。
まとめ
・MCIでは多剤併用が珍しくなく、数だけで善悪は決まりません。
・研究では、多剤併用の人が認知症へ進みにくい可能性も示唆。
・大事なのは「薬の数」より「薬の中身」と「適切さ」です。
・自己判断で中止せず、目的・副作用・必要性を一緒に点検しましょう。
当院でのコマーシャル(最後に)
那覇市のシーサー通り内科リハビリクリニックでは、
物忘れが気になる方の相談に加え、生活習慣病(血圧・脂質・糖)
の管理を通じた“脳と血管を守る医療”を大切にしています。
お薬が増えて不安な方には、お薬手帳をもとに整理の相談も可能です。
必要に応じて、頭部CTなどの検査、リハビリの視点も含めて、
日常生活を保つための提案を行っています。
引用(リンク)
- Hsu Y-H, et al. Polypharmacy and risk of dementia progression in older adults with mild cognitive impairment: A longitudinal cohort study. Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions. 2025;11:e70179. DOI:10.1002/trc2.70179
