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麻疹(はしか)が世界で急増中
あなたにもリスクがあるかもしれません
| このコラムの要点 かつては「子どもの病気」でしたが、いまは大人が最も多く感染しています。2025年の国内感染者は20〜30代が中心で、ワクチン2回接種未完了者が約79%を占めています。ワクチン接種歴を、この機会にぜひご確認ください。 |
1. 世界と日本の現状
| 245例 2025年の国内感染者数 (パンデミック後最多) | 5.7倍 2025年の感染者数 前年同期比増加率 | 2,281例 2025年の米国感染者数 (排除宣言後最多) | 79% 国内患者のうち 2回接種未完了の割合 |
麻疹は長らく日本では「珍しい病気」でした。しかし2025年の国内感染者数はパンデミック後最多となり、2026年も増加ペースが続いています。アメリカでは排除宣言(2000年)以降最多の感染者数を記録し、10年ぶりに3人が死亡。カナダは27年間維持した「麻疹排除国」の認定を失いました。
背景にあるのは、コロナ禍の定期接種遅れ、ワクチン忌避情報の拡散、そしてパンデミック後の国際往来の急回復です。日本国内の2025年感染者の約50%は海外からの輸入症例で、ベトナムからの持ち込みが最多でした。
参考:国立感染症研究所(JIHS)発生動向調査、厚生労働省注意喚起(2026.2.13)
2. なぜ「大人」が今、危ないのか
2025年の国内患者の年齢中央値は24歳で、10〜30代が約70%を占めています。「子どもの病気」というイメージは、もはや現実と一致していません。
特に注意が必要なのが「空白世代」——1972年10月〜1990年4月1日生まれ(現在35〜53歳)の方々です。この世代はワクチン制度の変更前にあたり、1回しか接種を受けていない方が多く、免疫が不十分な可能性があります。成人が感染した場合は小児よりも重症化しやすく、肺炎でICU管理が必要になるケースも報告されています。
3. あなたのリスクは? — 年代別早見表
| 生まれ年・年代 | リスクの目安 | 推奨される対応 |
| 1990年4月以降生まれ(現在35歳未満) | 比較的低い | 2回接種制度が整備されており、接種歴があれば免疫は十分な可能性が高い。ただし接種記録の確認を推奨。 |
| 1972年10月〜1990年3月生まれ(現在35〜53歳) *「空白世代」 | 注意が必要 | 1回接種のみの可能性が高い。接種記録を確認し、不明・1回のみの場合は抗体検査またはMRワクチン追加接種を検討してください。 |
| 1966年〜1972年9月生まれ(現在53〜59歳) | 要確認 | 接種歴・感染歴が不明の場合は医師に相談。感染歴が確実なら追加接種は不要なことが多い。 |
| 1966年より前の生まれ(60歳以上) | 通常は低い | 幼少期に自然感染し免疫を持っている方がほとんど。免疫不全のある方はかかりつけ医に相談を。 |
※年齢区分は目安です。接種歴・感染歴には個人差があります。判断に迷う場合はかかりつけ医にご相談ください。
参考:日本感染症学会緊急注意喚起(2026.3)、国立感染症研究所リスクアセスメント
4. 麻疹の症状と経過
麻疹は「発熱+発疹」が主な症状ですが、病気の進み方には特有のパターンがあります。段階を知っておくことで、早期に疑い、素早く受診することができます。
| 潜伏期 | 症状なし 感染後 約7〜14日 この期間は症状がなく感染していることに気づきません。空気感染・飛沫感染で、同じ部屋にいるだけで感染します。 |
| カタル期 | 風邪そっくりの症状(最も感染力が高い時期) 発症後 2〜4日 38〜39℃の発熱、咳、鼻水、目の充血(結膜炎)。この段階では風邪との区別が非常に難しい。特徴的なサインが口の中の頬粘膜に現れる小さな白い斑点「コプリック斑」で、発疹が出る1〜2日前のみ見られます。下図 ▶ コプリック斑を見つけたら麻疹を強く疑い、すぐに電話受診を |
| 発疹期 | 特徴的な発疹と高熱(最も体調が悪い時期) 発症後 4〜6日 耳の後ろ・顔から始まった赤い発疹が体幹・腕・足へ広がります。発熱が再び39〜40℃に上昇。発疹は融合して広い範囲に広がり、押しても色が残る(消えにくい)のが特徴です。下図 |
| 回復期 | 発疹が引き徐々に回復 発症後 7〜10日以降 発熱と発疹が引き体調が戻ります。ただし「免疫健忘(immune amnesia)」により、回復後も数ヶ月間は他の感染症にかかりやすい状態が続きます。合併症(肺炎・脳炎)がこの段階で現れることもあります。 |
| コプリック斑(Koplik’s spots)とは? 口の中、頬の粘膜(上奥歯の近く)に現れる小さな白い斑点(砂粒のような点々)です。麻疹に特有のサインで、発疹が現れる1〜2日前のわずか2〜3日間だけ見られます。「熱と風邪症状が続いている」と感じたら、鏡で口の中を確認してみてください。見つかった場合はすぐにクリニックへお電話ください。 |
5. 「ただの風邪」との見分け方
麻疹の初期は風邪と見分けがつきにくいですが、以下の症状と背景リスクの組み合わせがあれば麻疹を強く疑ってください。
| 麻疹を疑う症状の組み合わせ 38℃以上の発熱が続く強い咳・鼻水・目の充血口の中に白い斑点(コプリック斑)耳の後ろ〜顔から始まる発疹発疹が出る頃に熱が再上昇 | 背景リスク因子 ワクチン2回接種歴なし・不明最近の海外渡航(特に東南アジア)麻疹患者との接触歴1972〜1990年生まれ(空白世代) |
6. 主な合併症
麻疹は「子どもの病気」と軽く見られがちですが、成人が感染した場合のほうが重症化しやすいとされています。先進国でも1,000〜2,000人に1人が死亡するとされており、決して「たかがはしか」ではありません。
| 合併症 | 重症度 | 解説 |
| 肺炎 | 重篤 | 最も多い合併症。麻疹による死亡の最大原因。成人ではICU管理が必要なケースも。 |
| 急性脳炎 | 重篤 | 1,000人に1人の頻度で発症。致死率約15%、生存者の20〜40%に永続的な後遺症が残る。 |
| SSPE (亜急性硬化性全脳炎) | 致死的 | 感染から平均7年後に発症する遅発性の脳疾患。1歳未満感染では609人に1人。有効な治療法なし。 |
| 中耳炎 | 注意 | 頻度が高い合併症。難聴につながることがある。 |
| 妊娠への影響 | 注意 | 妊婦が感染すると流早産率が15〜40%上昇。胎児への影響(低出生体重・新生児先天性麻疹)も。 |
| 免疫健忘 (immune amnesia) | 注意 | 回復後も数ヶ月間、他の感染症にかかりやすい状態が続く。 |
7. ワクチンで確実に防げます
MRワクチン(麻疹・風疹混合)は1回接種でワクチン有効性(VE)約93%、2回接種で約97%と非常に高い予防効果があります。メタアナリシスでは2回接種で98.7%のVEが示されており、世界で最も信頼性の高いワクチンの一つです。
◎ 接種を特に検討すべき方
- 接種記録の確認:母子健康手帳で1回・2回の接種歴を確認してください。
- 不明・1回のみの方:抗体検査(採血)または任意でMRワクチン追加接種を検討(費用は自費・任意接種)。
- 海外渡航を予定している方(特にベトナム・インドネシアなど東南アジア):出発前に接種歴を確認し、未完了なら早めに接種を。
- 妊娠希望の女性:MRワクチンは生ワクチンのため接種後約2か月は避妊が必要。妊娠前に計画的に接種しましょう。
- 医療従事者・保育士・教職員:職業上の曝露リスクが高いため、優先的に免疫の確認を。
- 0歳児・妊婦のいるご家庭:ワクチンを接種できない家族を守るために、周囲の大人が免疫をつけることが大切です。
| 疑ったら、まず電話を 発熱+発疹の症状がある場合、直接来院せずに事前にクリニックへお電話ください。麻疹は空気感染するため、待合室での二次感染を防ぐために、受診方法を事前にご案内します。 |
8. まとめ
麻疹は「過去の病気」ではありません。2025〜2026年にかけて日本でも感染者が急増しており、特に1972〜1990年生まれの「空白世代」の方は、ご自身の接種歴を今すぐご確認ください。ワクチンで確実に予防できる感染症です。不明な点はお気軽に当院へご相談ください。
シーサー通り内科リハビリクリニック(那覇市銘苅)


参考:CDC/ACIP、Wendorf et al. 2017(SSPE発症率)、日本感染症学会(2026.3)
