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多発性硬化症・視神経脊髄炎脳神経内科

多発性硬化症の進行を血液検査で予測?「GFAP」が新たなバイオマーカーとして注目

多発性硬化症(MS)は、脳や脊髄、視神経などに炎症が起こり、
しびれ、運動障害、視力低下など、さまざまな症状を生じる病気です。

治療の進歩によって「再発」を抑えることは以前より可能になりました。
一方、再発していないのに少しずつ身体機能が低下することがあります。

この現象は「PIRA(ピーラ)」と呼ばれ、近年の多発性硬化症診療で、
長期的な予後を考えるうえで非常に重要なテーマとなっています。

2026年8月、医学誌『JAMA Neurology』に、血液中の「GFAP」が、
このPIRAを予測する手がかりになる可能性を示した研究が発表されました。

【多発性硬化症の「PIRA」とは?再発がなくても病気は進行する】

多発性硬化症というと、「再発を繰り返す病気」というイメージを
持っている方も多いかもしれません。しかし、病態はそれだけではありません。

治療によって明らかな再発やMRI上の新しい病変を抑えられていても、
歩行などの身体機能が徐々に低下していく患者さんがいます。

これがPIRA、つまり「再発とは独立して進行する障害」です。
今回の研究では、再発を伴わず6カ月以上続く障害悪化などを評価しました。

そこで注目されたのが、血液中で測定できる「GFAP」です。
GFAPは主に「アストロサイト」という脳の細胞に含まれるたんぱく質です。

アストロサイトは神経細胞を支え、脳内環境を整える重要な細胞です。
傷害や慢性的な変化が生じると、血液中のGFAPが増えることがあります。

研究者らはGFAPと、すでに注目されているNfLという血液マーカーを、
多発性硬化症患者さんで長期間にわたり繰り返し測定しました。

NfLは神経の軸索が傷ついた際に増えるたんぱく質で、今回の研究でも、
高いNfL値はその後1年間の「再発リスク」と関連していました。

これに対してGFAPは、再発そのものよりも、再発とは独立した
長期的・慢性的な病気の進行を反映する可能性が示されています。

【GFAPが高いと多発性硬化症の進行リスクが約40%高かった】

今回の研究には、スイスのSMSCと米国のEPICという2つの大規模な
多発性硬化症コホートから、合計2,329人が参加しました。

解析された血液サンプルは合計18,629回分に達し、患者さんを、
スイスでは中央値6.9年、米国では中央値13.1年追跡しています。

最大のポイントは、GFAPが高い患者さんでは、その後のPIRA、つまり
「再発を伴わない障害進行」の危険性が高かったことです。

スイスの集団ではGFAPが高値の場合、次回受診まで約1年間に、
PIRAを起こすリスクが45%高いという結果でした。

米国の別の患者集団でも結果は再現され、GFAP高値では、
短期間のPIRAリスクが36%高いことが確認されています。

一方、NfLは同じ解析ではPIRAとの明確な関連を認めませんでした。
ここが、GFAPとNfLの役割の違いを考えるうえで重要です。

簡単にいえば、NfLは「今起こっている炎症・神経障害」を捉えやすく、
GFAPは「じわじわ進む慢性的変化」を捉える可能性があります。

どちらか一方が優れているというより、異なる病態を見ているため、
将来的には2つを組み合わせて評価することも期待されています。

実際、研究者らもNfLとGFAPは異なる病態を反映すると考えており、
両者の併用で病気をより立体的に把握できる可能性を指摘しています。

【多発性硬化症の治療効果もGFAPで分かる可能性】

もう一つ興味深い結果が、「治療後のGFAPの変化」です。

研究では、フィンゴリモドまたはB細胞除去療法を開始した患者さんで、
治療開始後2年間のGFAPの変化と、その後のPIRAを調べました。

その結果、その後PIRAを起こさなかった患者さんでは、
治療中のGFAPがより大きく低下する傾向が認められました。

GFAPのzスコアが1年間に1単位低下するごとに、その後のPIRAリスクは、
フィンゴリモド群で54%、B細胞除去療法群で67%低くなりました。

つまり将来的には、単に「GFAPが高い・低い」だけではなく、
治療後にどう変化したかを追うことにも意味があるかもしれません。

これは血糖値やコレステロール値を定期的に確認するように、
MSでも血液から治療反応を継続的に評価する未来につながる研究です。

ただし、今回の結果だけでGFAPを日常診療の標準検査として、
すぐにすべての患者さんへ使用できるというわけではありません。

研究対象となった人種・民族には偏りがあり、2つのコホートでは、
PIRAの定義や治療背景にも違いがあることが研究上の限界です。

また年齢や体格、性別などの影響を補正し、標準化して評価するための
基準データベースも、実際の臨床応用には重要になります。

それでも、「再発がない=病気が完全に止まっている」とは限らない、
という多発性硬化症診療の課題に新しい光を当てた研究といえます。

MRIや診察による評価にGFAPやNfLなどの血液検査が加われば、
患者さん一人ひとりの病気の状態をより細かく把握できるかもしれません。

多発性硬化症の治療は、「再発を防ぐ」ことからさらに進み、
「将来の障害進行を早く見つけて防ぐ」時代へ向かいつつあります。

よくある質問(Q&A)

Q.GFAPが高ければ多発性硬化症が進行するということですか?
A.必ず進行するわけではありません。今回示されたのは統計的な関連です。
GFAPだけで個人の将来を確実に予測できる段階ではありません。

Q.GFAPは通常の血液検査で測定できますか?
A.一般診療で日常的に測定する検査としては、まだ十分普及していません。
測定方法や基準値を含め、今後さらに臨床応用の検討が必要です。

Q.NfLとGFAPは何が違うのでしょうか?
A.NfLは神経軸索の障害や炎症性の病変、GFAPはアストロサイトの変化や、
より慢性的な病気の進行を反映する可能性があると考えられています。

Q.再発がなければ安心してよいのでしょうか?
A.再発がないことは大切ですが、それだけでは十分ではありません。
歩行、手の動き、認知機能などを含め、定期的な評価が重要です。

シーサー通り内科リハビリクリニックから

那覇市のシーサー通り内科リハビリクリニックでは、
内科・脳神経内科・リハビリテーション科の診療を行っています。

手足のしびれ、力が入りにくい、歩きにくい、ふらつくなどの症状や、
多発性硬化症を含む神経疾患についてもお気軽にご相談ください。

神経疾患では、診断や薬物治療だけでなく、症状や身体機能を継続して評価し、
必要に応じてリハビリを組み合わせていくことも大切です。

当院では医師とPT・OT・STなどのリハビリスタッフが連携し、
患者さんの生活や身体機能を含めた診療を大切にしています。

引用・参考文献

Einsiedler M, Sandgren S, Schaedelin S, et al.
Serum Glial Fibrillary Acidic Protein Dynamics, Disease Progression,
and Therapy Response in Multiple Sclerosis.

JAMA Neurology. Published online August 3, 2026.
doi: 10.1001/jamaneurol.2026.2500