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見逃されがちな“新しい脂肪肝”MASLDの症状と治療法とは
MASLDとは?脂肪肝との違いとその背景
MASLDは「Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease」の略で、日本語では「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」と呼ばれます。以前は「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」と呼ばれていましたが、2023年に国際的に名称が変更されました。
MASLDの特徴は、アルコールをあまり飲まないにも関わらず、肝臓に脂肪が蓄積し、代謝異常(肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症など)を合併する点です。近年の研究では、MASLDの人は心血管病や腎疾患、さらには肝がんのリスクも高いことがわかってきました。
特に驚くべきは、健康診断で「肝機能正常」とされた人でも、MASLDが潜んでいる可能性があるという点です。血液検査のAST・ALTだけでは見逃されることもあり、超音波やFIB-4 indexなどの非侵襲的検査が重要になります。
なぜ問題?生活習慣病や心臓病との深い関係
MASLDは単なる脂肪肝ではありません。特に問題なのは、次のような病気と強く関連していることです。
- 心臓病(虚血性心疾患・心不全)
- 慢性腎臓病(CKD)
- 2型糖尿病や高血圧
- 肝硬変や肝がん
たとえば、ある研究ではMASLDのある人は心不全のリスクが最大3.5倍に高まるとされています。また、FIB-4 indexという肝線維化の指標が高い男性では、腎機能の低下リスクも増加するというデータがあります。
また、2型糖尿病を合併している場合は、MASLDが軽症でも死亡率や心血管病リスクが有意に上昇することが報告されています。
どうすれば防げる?予防と治療のポイント
MASLDは生活習慣と深く関係しているため、予防と治療の基本は「生活改善」です。
以下のような取り組みが推奨されます:
- 適正体重の維持:5〜10%の減量で肝機能が大きく改善
- 運動習慣:有酸素運動や筋トレを週3〜5回
- 栄養管理:野菜中心の食生活、特にニンジンやカボチャなどに含まれる抗酸化物質(ビタミンE)が有益とされます
- 睡眠の改善:短時間睡眠や睡眠の質の低下も発症リスクと関連
- 飲酒制限:たとえ中等度の飲酒でもMASLDのある人では肝線維化が進行する可能性があります
さらに、薬物療法としては、GLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)やSGLT2阻害薬(ダパグリフロジンなど)の有効性が示されています。
まとめ
MASLDは「見えない肝臓の危機」と言える病気です。初期には症状がほとんどなく、健康診断でも見逃されることが多い一方で、進行すると命に関わる合併症を引き起こします。
特に肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常などを持つ方は、自覚症状がなくても一度肝臓の状態をチェックすることをおすすめします。
【引用・参考文献】
- Simon TG, et al. JAMA. 2024;331:920-929.
- Duell PB, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2022;42:e168-e185.
- Marti-Aguado D, et al. J Hepatol. 2024 Jul 4.
- Miwa T, et al. JGH Open. 2024;8:e13110.
- Liu C, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e2335511.
- Sasada T, et al. Nutrients. 2024;16:2877.
当院での取り組み
シーサー通り内科リハビリクリニック(那覇市)では、CTを用いた内臓脂肪測定や、超音波・血液検査・FIB-4 indexによる脂肪肝のリスク評価を行っております。また、生活習慣病の治療や運動・栄養指導を専門の医師と理学療法士が連携してサポートいたします。
早期発見・早期改善で、将来の心臓病や肝がんを予防しましょう。
