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いま増える耐性菌NDM:尿路感染・肺炎の注意点と受診の目安を専門医が解説
【はじめに:いまなぜ“悪夢の細菌”が話題なのか】
最近、抗菌薬が効きにくい細菌による感染症が世界で問題になっています。中でも注目は、NDM(ニューデリー・メタロβラクタマーゼ)という酵素をつくる細菌で、セフェム系やカルバペネム系など多くの薬が効きにくいのが特徴です。米国ではNDMを持つカルバペネム耐性腸内細菌(NDM-CRE)が2019年以降に急増したと報告され、「悪夢の細菌」とも呼ばれています。日本でも海外と人や物が行き来する時代、他人事とは言えません。家庭と医療の現場でできる対策を、一般の方向けにわかりやすく整理します。
【ポイント①:NDM-CREとは何か(キーワード:耐性、尿路感染、肺炎)】
NDMは細菌が作る酵素で、抗菌薬を分解して無力化してしまいます。NDMを獲得した大腸菌や肺炎桿菌などは、尿路感染症、肺炎、血流感染、創傷感染を起こしやすく、重症化すると命に関わることがあります。治療の選択肢は限られ、点滴で使う高価な薬が必要になることもあります。重要なのは「早めに気づき、適切に検査し、必要な治療や隔離を素早く行う」ことです。症状としては、発熱、悪寒、排尿時痛や頻尿、咳や痰、傷の赤みや膿などが代表的です。持病がある方、高齢者、カテーテル留置中の方、最近入院や手術をした方は注意が必要です。
【ポイント②:どこから広がる?(キーワード:手指衛生、環境清掃、抗菌薬適正使用)】
NDM-CREは患者さんの便や尿、傷の分泌物などに含まれ、手指や医療器具、環境表面を介して広がります。最も効果的な対策は、こまめな手洗いとアルコールによる手指衛生です。家庭では、トイレ後と調理前後、外出後は必ず手洗いを行い、タオルは共有しないようにします。病院や施設では、接触予防策(手袋・ガウン)、機器の共用を避ける、環境清掃の徹底が柱です。そして見落とせないのが「抗菌薬の適正使用」です。必要のない風邪に抗菌薬は効きません。医師に処方されたとおりの量と日数を守り、自己判断で中断したり、余った薬を他人に渡したりしてはいけません。これらは耐性菌を増やす近道になってしまいます。
【ポイント③:受診の目安と日常でできる予防(キーワード:早期受診、ワクチン、体調管理)】
次のような場合は受診を検討してください。①高熱や強い悪寒、息苦しさがある、②排尿時の痛みや血尿、悪臭のある尿、③傷が赤く腫れて膿が出る、④点滴やカテーテル周囲の痛みや発赤が強い、⑤抗菌薬を飲んでも症状が改善しない、などです。予防としては、十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動で免疫力を保つことが基本です。インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種も、重症感染のリスクを下げる意味で役立ちます。介護や医療に関わる方は、標準予防策(手指衛生、咳エチケット、個人防護具)を徹底し、体調不良時は無理をせず勤務調整を行いましょう。地域全体での地道な取り組みが、耐性菌の拡大を抑えます。
【まとめ:正しい知識と小さな行動が、地域の安全を守ります】
NDM-CREは確かに手強い相手ですが、私たち一人ひとりの手洗い、環境整備、抗菌薬の賢い使い方、そして早期受診の4本柱で、被害を小さくできます。
とくに注意したいのは「不要な抗生剤の使用」です。
熱が出たからといって、すぐに抗生剤が必要とは限りません。多くの発熱はウイルスなどが原因で、自然に治るケースが大半です。
一方で、細菌感染が疑われる場合には、医師の判断で適切な抗生剤が必要になります。
大切なのは、「必要なときに、正しい種類を、正しい量と期間で使う」ことです。自己判断での服用や、余った薬の再利用は耐性菌を増やす原因になります。
医療機関では、迅速検査と感染対策の強化、地域連携が重要です。
不安な症状が続くとき、既往症やカテーテル留置があるときは、我慢せず早めに専門医へ相談しましょう。当院でも、尿路感染や肺炎の診断、培養検査、画像検査、必要時の高次医療機関への紹介まで、切れ目なく対応します。
正しい一歩を、今日から一緒に始めましょう。
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【引用・参考】
HealthDay News「国で『悪夢の細菌』による感染症が急増」(Annals of Internal Medicine報告紹介)。
原著:Rankin DA, et al. Ann Intern Med. 2025 Sep 23. Epub ahead of print.
