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家族性高コレステロール血症に新戦力?経口PCSK9阻害薬エンリシチドの効果と安全性
家族性高コレステロール血症(HeFH)は,生まれつきLDLコレステロールが高く,若いころから心筋梗塞や脳卒中のリスクが高くなる病気です。
生活習慣を整えても,下がりきらないLDLコレステロールに,どう向き合うかが長年の課題でした。近年はスタチンやエゼチミブに加えて,PCSK9阻害薬という強力な注射薬が登場し,治療の選択肢は増えています。
一方で,「注射が苦手」「通院が負担」と感じ,十分に利用されていない現状も指摘されています。今回JAMAに,PCSK9を標的とした“飲み薬”エンリシチド(enlicitide)の第3相試験の結果が報告されました。
HeFH患者さんにとって,新しい選択肢となりうる薬なのか,ポイントをわかりやすく整理します。
【家族性高コレステロール血症とLDLコレステロールのリスク】
HeFHは約250人に1人とされる頻度の高い遺伝性疾患で,多くはLDL受容体などをつくる遺伝子の変化が原因です。
その結果,血液中のLDLコレステロールがうまく処理されず,若い世代から動脈硬化が進みやすくなります。
LDLコレステロールは「悪玉コレステロール」と呼ばれ,血管の壁にたまり,プラークというコブのような病変をつくります。
このプラークが破れると,心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる病気を引き起こします。
そのためHeFHでは,一般の方よりもずっと厳しいLDLコレステロール目標値が推奨されています。欧米や日本のガイドラインでは,心血管病を起こしたことがある人では55mg/dL未満を目標とする流れになっています。
しかし,実臨床では,高用量スタチンとエゼチミブをきちんと飲んでも,目標値に届かない患者さんが少なくありません。
注射のPCSK9阻害薬を追加すると多くは到達できますが,「注射というハードル」が導入の妨げになることもあります。
【経口PCSK9阻害薬エンリシチドの効果と安全性】
エンリシチドは,PCSK9というタンパク質の働きを“飲み薬”で抑える新しいタイプの薬です。PCSK9はLDL受容体を壊すスイッチのような役割を持つため,これを抑えると肝臓のLDL受容体が増え,血中LDLが下がります。
今回の試験では,18歳以上のHeFH患者303人が対象となりました。
全員が中~高強度のスタチンを服用しており,約6割はエゼチミブも併用していました。
参加者は2対1の割合で,エンリシチド20mgを1日1回内服する群(202人)とプラセボ群(101人)にランダムに割り付けられました。
治療期間は52週間で,主な評価項目は「24週時点のLDLコレステロールの変化率」と設定されています。結果として,24週時点のLDLコレステロールは,エンリシチド群で平均58%低下し,プラセボ群では約3%の増加でした。
両群の差は約59%で,統計学的にも明らかな有意差が認められています。
52週時点でも,エンリシチド群のLDLコレステロール低下は約55%とほぼ維持されており,効果の持続性が示されました。
また,non-HDLコレステロール,アポB,リポ蛋白(a)といった動脈硬化に関わる指標も,同様に大きく低下しています。
「LDLを50%以上下げ,かつ70mg/dL未満」「同じく55mg/dL未満」という厳しい目標の達成率も,エンリシチド群で7割前後に達しました。
スタチン+エゼチミブでも届かなかった患者さんが,多く目標域に入り得ることが示された形です。安全性については,何らかの副作用を経験した人の割合は,エンリシチド群77.7%,プラセボ群76.2%とほぼ同程度でした。
中止に至る副作用も両群で数%と少なく,重篤な有害事象も薬剤との関連は認められていません。
【エンリシチドがもたらす将来の治療選択肢と注意点】
今回の結果から,エンリシチドはHeFHに対して「注射薬と同程度のLDL低下を,飲み薬で実現できる可能性」が示されたと言えます。
注射への抵抗感や通院負担のためにPCSK9阻害薬を使えていなかった患者さんにとって,大きな朗報になり得ます。一方で,現時点では「LDLなどの数値がどれだけ下がるか」を見た試験であり,心筋梗塞や脳卒中をどれだけ減らせるかはまだわかりません。
主要な心血管イベントを評価する大規模アウトカム試験は現在進行中で,結果を待つ必要があります。また,エンリシチドは記事執筆時点で一般診療で使える薬ではなく,今後の承認状況や価格,保険適用なども重要なポイントになります。
「良さそうだから今の薬を自己判断でやめる」ということは絶対に避けてください。
HeFHの治療の土台は,これまでと同じく生活習慣の改善とスタチン治療であり,それに追加してどの薬を組み合わせるかを考えます。
エンリシチドも,その追加選択肢の一つとして位置づけられる可能性が高いと考えられます。ご自身やご家族が「若いころからコレステロールが高い」「親族に若年で心筋梗塞・脳卒中になった人が多い」といった場合,HeFHの可能性があります。
早期に専門医を受診し,適切な検査と治療を受けることで,将来の心血管イベントリスクを大きく減らせるかもしれません。
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【参考文献】
Ballantyne CM, Gellis L, Tardif J-C, et al. Efficacy and Safety of Oral PCSK9 Inhibitor Enlicitide in Adults With Heterozygous Familial Hypercholesterolemia: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025; Online first November 9, 2025. doi:10.1001/jama.2025.20620
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当院(那覇市・シーサー通り内科リハビリクリニック)では,総合内科・脳神経内科・認知症・動脈硬化専門医が,高コレステロール血症や家族性高コレステロール血症の診療を行っています。LDLコレステロールが高い方,ご家族に早期の心筋梗塞・脳卒中歴がある方,動脈硬化が心配な方は,一度ご相談ください。CTや血液検査を組み合わせて,全身の動脈硬化リスクを評価し,最新のエビデンスに基づいた治療をご提案いたします。
