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軽度認知障害(MCI)に新しい治療法?脳を切らない「深部脳刺激」の研究を脳神経内科専門医・認知症専門医が解説
軽度認知障害に新たな可能性
脳を切らずに深部を刺激する治療とは
「最近、物忘れが増えた」「話の途中で内容が分からなくなる」と感じても、
すぐに認知症とは限りません。
認知症ではないものの、同年代と比べて認知機能が低下した状態を、
軽度認知障害、英語の頭文字を取ってMCIと呼びます。
MCIは認知症の前段階となる場合がありますが、早めに原因を調べ、
生活習慣や病気を整えることで、進行を遅らせられる可能性があります。
2026年、脳を手術せずに小脳と脳の深い場所を刺激することで、
MCIの一部において作業記憶が改善したという研究が発表されました。
今回は、この新しい脳刺激治療の仕組みと研究結果、今後の課題について、
一般の方にも分かりやすく解説します。
【軽度認知障害と作業記憶とは?日常生活への影響】
作業記憶とは、情報を一時的に頭の中へ置き、利用する能力のことです。
「ワーキングメモリー」とも呼ばれます。
たとえば、電話で聞いた番号を入力する、会話の内容を覚えながら返事をする、
料理の手順を考えながら作業する場面で使われています。
作業記憶が低下すると、話が途中で分からなくなったり、複数の作業を
同時に進めにくくなったりします。
今回の研究では、記憶をつかさどる脳の表面だけではなく、
線条体と小脳を結ぶ神経回路に注目しました。
線条体は脳の深い場所にあり、運動だけでなく、注意や判断、作業記憶にも
関係しています。
一方、小脳は体のバランスを調整する場所として有名ですが、近年では、
記憶や思考にも関わることが分かってきました。
特にレビー小体型認知症では、線条体の働きが早い時期から低下する一方、
小脳の機能は比較的保たれやすいと考えられています。
そこで研究者らは、小脳の力を利用して線条体の働きを補助できないか、
という考えから新しい刺激方法を検討しました。
【非侵襲的深部脳刺激で作業記憶は改善したのか】
研究にはMCI患者41人と、認知機能が正常な高齢者20人が参加しました。
MCI患者のうち21人は、レビー小体型認知症の前段階と考えられる人でした。
残る20人は、記憶力の低下が目立つ健忘型MCIでした。参加者の平均年齢は、
およそ70歳から72歳でした。
研究では、頭の外から磁気を当てる経頭蓋磁気刺激、いわゆるTMSを使って、
まず左側の小脳を刺激しました。
続いて、わずかに周波数の異なる電流を頭皮から流し、脳の深部で電気的な
干渉を起こす時間干渉刺激により、線条体を狙いました。
参加者は、本物の二重刺激、線条体のみの刺激、実際には脳を刺激しない
対照条件の3種類を、順番を変えて受けました。
どの刺激を受けているのかを参加者や評価者に分かりにくくする、
厳密な比較方法が採用されています。
その結果、レビー小体型認知症の前段階にあるMCI患者では、小脳と線条体を
続けて刺激した際、邪魔な情報を無視して答える課題の正答率が上昇しました。
対照条件との比較では統計学的にも明確な差があり、線条体だけを刺激した
場合よりも、二重刺激の成績が良好でした。
特に、刺激前の線条体のつながりが弱い人ほど、正答率の改善が大きいという
関連も確認されました。
一方、健忘型MCIでは、二重刺激による明確な認知機能改善は認められません
でした。
つまり、すべての物忘れに同じような効果が出るのではなく、認知機能低下の
原因や障害されている神経回路によって反応が異なる可能性があります。
【認知症治療として実用化される?効果と注意点】
今回の研究は、脳を切開したり、電極を埋め込んだりせずに、脳の深い部分を
刺激できる可能性を示した点で注目されます。
研究中に重大な有害事象は認められず、安全に実施できたことも重要です。
ただし、すぐに一般診療で受けられる治療になったわけではありません。
参加したMCI患者は41人と少なく、刺激を行ったのも各条件につき1回です。
改善効果が何日、何週間続くのかは調べられていません。
また、レビー小体型認知症に特徴的な病理が、全参加者に確実に存在したか
どうかを確認できる検査も十分ではありませんでした。
今後は、より多くの患者を対象として刺激を繰り返し、効果の持続期間や、
日常生活の改善につながるかを検証する必要があります。
現時点での認知機能低下への基本的な対応は、運動、睡眠、食事、血圧、
糖尿病、脂質異常症などを適切に管理することです。
物忘れの背景には、アルツハイマー病やレビー小体型認知症だけでなく、
脳血管障害、睡眠障害、うつ状態、薬の影響などが隠れている場合があります。
新しい治療を待つだけでなく、まずは認知機能が低下した原因を正確に調べ、
現在できる対策を早めに始めることが大切です。
【よくある質問 Q&A】
Q.MCIは必ず認知症になりますか?
A.必ず認知症になるわけではありません。原因によっては認知機能が保たれ、
生活習慣や病気の治療によって改善することもあります。
Q.今回の脳刺激は日本で受けられますか?
A.今回の小脳と線条体を組み合わせた刺激は研究段階です。現時点では、
一般的な認知症治療として広く受けられるものではありません。
Q.物忘れがあれば、すぐに検査を受けるべきですか?
A.同じ質問を繰り返す、薬の管理が難しい、道に迷うなど、日常生活への
影響が出ている場合は、早めに専門医へ相談することをおすすめします。
【当院からのお知らせ】
那覇市・浦添市・沖縄県で、物忘れ、軽度認知障害、認知症、歩行障害、
手の震え、動作の遅さなどでお困りの方は、当院へご相談ください。
シーサー通り内科リハビリクリニックでは、認知症専門医・脳神経内科専門医が、
認知機能検査や画像検査を行い、症状の原因を丁寧に評価します。
内科的な生活習慣病の管理から、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士による
リハビリテーションまで、一人ひとりに合わせて支援します。
【引用文献】
Nencha U, Pupíková M, di Natale M, et al. Multifocal Noninvasive Deep Brain
Stimulation to Enhance Cognition in Mild Cognitive Impairment: A Crossover Trial.
JAMA Network Open. 2026;9(7):e2621756.
