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一般内科生活習慣病(高血圧・糖尿病など)

高血圧の目標は120か130か?最新研究が示す「厳格管理」の本当のメリット

【はじめに】
近年,血圧をより低く保つ「厳格管理」が推奨される一方,副作用も気になります。
最新の個人参加データ統合解析では,厳格管理は心血管イベントを確実に減らしつつ,
低血圧や失神,腎関連事象がわずかに増えることが示されました。重要なのは,誰に,
どこまで,どのスピードで下げるかを「利益−害」で個別に見極める視点です。

【ポイント1:心血管イベントはどれだけ減る?(キーワード:心筋梗塞・脳卒中・心不全)】
6つの大規模試験の個人データを統合した解析では,厳格管理は標準管理に比べ主要複合
心血管イベントを相対で約24%低下,絶対でも約1.7%減らしました(NNT≒58)。基礎リ
スクが高い人ほど恩恵の絶対量は大きくなります。糖尿病や高齢者を含む広い集団で全体
として利益が上回る傾向が確認され,近年の日本・欧州・カナダの推奨(130/80mmHg)と
整合します。外来では既往歴,年齢,喫煙,脂質,腎機能などを踏まえ,利益の見込みを
定量的に把握してから目標を設定するのが効果的です。

【ポイント2:増える“害”は?(キーワード:低血圧・失神・腎機能・電解質異常)】
同解析では,低血圧や失神,電解質異常,腎関連イベントが絶対で約1.8%増えました
(NNH≒55)。多くは可逆的ですが,脱水,利尿薬増量,多剤併用,フレイル,起立性低血
圧の素因が重なると影響は増幅します。診療では,ふらつき・転倒歴,夜間頻尿,体重変
動,NSAIDs内服,利尿薬やRAS阻害薬の用量を毎回点検。導入後2–4週でeGFRとカリウムを確認し,軽度のクレアチニン上昇が許容範囲かを丁寧に判断します。家庭血圧や立位血圧のチェックも副作用の早期察知に役立ちます。

【ポイント3:現実的な“目標の置き方”(キーワード:120–129mmHg・段階的降圧・共有意思決定)】
実臨床で全員を一律にSBP<120mmHgへ,は現実的でも安全でもありません。まずSBP
120–129mmHgを第一目標に据え,副作用が乏しく,基礎リスクが高い人は120未満も検討。フレイルや起立性低血圧が目立つ人は125–135mmHgに幅を持たせます。薬剤はACE阻害薬/ARB,Ca拮抗薬,サイアザイド系利尿薬を軸に,夜間高血圧や早朝高血圧の有無で投与時刻を最適化。減塩(目標6g/日未満),有酸素運動,節酒,体重管理,睡眠の質改善をセットで実行すると,降圧効率が上がり総服用量も抑えやすくなります。最後は「どの利益をど
れだけ重視し,どんな害は避けたいか」を見える化し,患者さんと共有意思決定を行いま
しょう。

【よくある質問Q&A】
Q1:厳格に下げるほど腎機能は必ず悪化しますか?
A:一過性のeGFR低下は起こりえますが,総じて心血管イベント減少による純利益が勝る
という結果でした。腎機能は定期チェックし,リスクが高い方はゆっくり下げましょう。
Q2:家庭血圧はどのように活用しますか?
A:起床後1時間以内と就寝前に測定し,1週間の平均を診療に反映。早朝高血圧の把握や
薬の時間帯調整に役立ち,安全に厳格化しやすくなります。
Q3:どの値から厳格化を検討しますか?
A:まず既存治療で130台前半を目指し,副作用が少なく高リスクなら120台前半へ。それ
以上の厳格化は転倒・ふらつき等の害と天秤にかけて“あなた仕様”で判断します。

【実行チェックリスト】
□ 基礎リスク(既往歴・年齢・喫煙・脂質・腎機能)を把握した
□ 家庭血圧(朝夕1週間平均)を確認した
□ 低血圧・失神・転倒歴等の副作用感受性を評価した
□ eGFR・Kを導入2–4週で再検査する計画を立てた
□ 生活習慣(減塩・運動・睡眠・節酒)をセットで支援する計画を立てた
□ 目標値は120–129mmHgを軸に,個別に微調整する方針を合意した

【まとめ】
厳格な血圧コントロールは,心筋梗塞・脳卒中・心不全を減らす確かな方法です。
一方で低血圧や腎関連事象などの“害”もわずかに増えるため,「誰に・どこまで」を丁寧
に個別化することが鍵。基礎リスクと副作用感受性を両輪で評価し,120–129mmHgを軸に
段階的に安全到達を目指しましょう。生活習慣の最適化と家庭血圧の活用が成功の近道です。

【参考文献・引用(リンク)】
The Lancet. Benefit–harm trade-offs of intensive blood pressure control versus standard control.2025;406(10507):1009–1019. DOI: 10.1016/S0140-6736(25)01391-1(抄録)

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【当院からのご案内】
シーサー通り内科リハビリクリニック(那覇市)。高血圧・脂質異常症・糖尿病の総合管理,
脳神経内科(頭痛・めまい・認知症・脳卒中後遺症)とリハビリを専門的に実施。家庭血圧の徹底活用,心電図,エコー,骨密度測定,CTで全身の動脈硬化評価までワンストップ。厳格管理が向くか迷う方はお気軽にご相談ください。